トーアの破綻に思うこと
先日トーアスチールが破綻宣告をしたが、やはり鹿島の新工場の投資(1300億とも1500億とも言われる)負担が重かったことが最大の原因であるが、業界として過剰設備を認識していながら、減産が出来ず価格の暴落を止めることが出来なかった体質が根底にあると思う。
1%の過剰供給は10%の価格低下になるとは昔から言われていることだとか、過剰な供給圧力は必ず市況の足を引っ張ることは明白である。電炉業の主力品種の鉄筋棒鋼についてみると、国内需要1000万トンに対し設備能力は2000万トンはあろう。
この設備能力といわれるものは、定義があやふやで業界として公称能力を定義つけようとする努力がなされているが、各社の思惑もこれありで業界の姿勢が問われるところである。
生産量は時間当りの圧延量X圧延時間であるが、同じミルでも時間当りの圧延量は圧延サイズによって異なる。それぞれの会社の受注サイズ構成が異なることから不確定要素が出てくる。これを業界で統一することは不可能である。
時間の方も不確定要素が多く、基本的にはシフト数で表すが、1シフトで何時間操業するのかが社によって日によって異なり、同じシフト数でも残業の取り方でも圧延時間は変わってくる。その他修理時間、サイズ替え時間を配置要員で取るのか、別の要員で行うのかによっても生産能力は変わってしまう。
バブルの末期から電炉業各社は設備の新鋭化投資やサイズ拡大に走った。当然のことながら能力は増大したのであるが、申し合わせたようにシフトを落とすので生産量は変わらない(変えない)とアナウンスした。
同様のことが第二の主力品種であるH形鋼にも起きている。鉄筋棒鋼と違い設備規模が大きいので、各社一斉にとは行かないが、大手の東鉄とトーアが関東地区に工場を新設した。おまけに高炉メーカーが当時の円高による原料安を武器に市場に影響力を発揮しようとしたことで需要に対して4倍位の能力になってしまった。
しかしながら、この余力は収益が悪化すると量に走る原因となった。量より価格の安定が優先するとは関係者全員の認識でありながら、自分のところだけはと隠れ増産に走ったのが価格破壊を引き起こし収益力を失う原因となった。
そこに、金融不安に伴う諸活動の停滞が実需を落とし増産と言う逃げ道を電炉業から奪ってしまった。
銀行の不良債権は公金で救済する方向であり、トーアの損失はNKKが補填するとか。しかしながら過剰設備の存在を放置したのでは解決策にはならない。あたかも、不良債権を隠したままで取り繕うとしているやり方に酷似しているように思う。
トーアや東鉄のH形鋼の圧延設備は新鋭設備であり、コスト競争力は強いものがる。投資負担から開放されれば、国内最強のミルである。これを活用して生産を続ければ、昔来た道をまた歩くことになるし、設備廃棄をするには大きすぎるし、売却するには日本ほどH形鋼を使う国はないので、他国にはミルの需要は当分の間ないだろう。とすれば共同利用して行くしかないのではなかろうか。
公正取引委員会が談合を厳しく規制しているが、過当競争により産業が疲弊する事を奨励しているものではなかろう、責任回避の為に前例主義を押し通すならば、鉄鋼業のみならずわが国全産業は浮上の手掛かりを失うのではなかろうか。
鉄筋棒鋼の過剰ミルにも問題が多い。1社1工場の会社も多く設備廃棄は困難である。また売却するには発展途上国と言えども最近は新鋭設備が設置されており簡単ではない。
鉄鋼業の時代は終わったと言う人がいるが、鉄ほど資材として有用な材料は無く、特に発展途上国を中心に需要が落ちることはないと思う。これに対して日本の鉄鋼業は安価な良質な鉄鋼製品を供給することで、それらの国の工業化の発展に貢献してきたが、資本蓄積と技術向上が進むと重工業産業を保有する方向になり、産業の育成のために保護政策がとられる。ここに集中豪雨的に輸出をするには抵抗が大きくなってきている。
日本の鉄鋼製造技術は世界最高水準にあり製品の輸出から設備と操業技術をセットで輸出することに切り変えることが必要なのではなかろうか。ただ他国で働いても最後にふるさとに帰りたいと言うのは日本人の特徴とか。その国に骨を埋める気概がないと信頼を得られないかもしれないが。
とにかく日本の鉄鋼業が抱えている問題は構造問題であり、抜本的な構造改革が必要である。鉄は国家なりと日本の産業界をリードした鉄鋼業であり、自由経済の仕組みの中で他の産業界(銀行を含め)の見本となるような解決策を見出して欲しいと願っている。