台湾大震災と鉄筋の使い方
1999年9月21日台湾南投縣を震源とする大地震が発生し、多くの犠牲者が発生しています。私も4年前に神戸東灘区に居住していて、震度7を体験し崩壊した建物や構築物を目の当たりにしましたが、そのときと全く同じような光景をマスコミを通じて見るにつけても、不幸にして犠牲になられた方のご冥福を祈り、被災された方の一日も早い立ち直りを願うものです。
それにしても、人口密集地の神戸に匹敵する犠牲者が出つつあるのは、建築物の安全性に十分な配慮がなかったことと報道されていますが、写真やテレビを見る限りにおいては納得できるものではあります。
鉄鋼製造にほぼ40年携わった私にとって、構築物の安全性に鉄鋼製品は重要な位置付けを持っていると信じており、又それを支えにし、誇りにも思ってきました。
今回の地震災害について、都大の先生が新聞の写真を見て曰く、“鉄筋の品質が悪く、靭性がないからこのように、伸び無しに破断している”との報道を見て、鉄鋼品質に対する認識の落差に驚き、私の知るかぎリの情報をここに述べることにしました。
鉄筋製品は鉄鋼製品の中では技術的に課題の少ない製品の一つです。 しかしながら、製造工程で品質を作りこむことについては、他のすべての製品と同じで、作りこみ易いというだけのことです。 靭性の不足した鉄筋を作ることのほうが困難です。 最近は品質管理に関わる測定装置も自動化され簡単に使われるようになったので、経験と勘による品質作りこみはどの国でも行われていません。
確かに写真やビデオでは鉄筋の端部がスパッと切れたように見えますが、台湾ではこれが普通の使い方なのです。
翻って、日本では鉄筋の接合はガス圧接と言うガスで加熱し加熱中に押し付けて接合する方法が90%以上使われています。 作業者には資格認定制度もあるのですが、阪神大震災で、その接合部の不完全性がクローズアップしました。 この状況はここにおいています。
機械継ぎ手が最善の方法と思うのですが、コストの点と既存業界への配慮から、なかなか普及しません。
台湾、タイ、フィリピンから、機械継ぎ手の技術移転を望まれ、調査した経験から、彼らは日本で普及している、ガス圧接は圧接作業者の育成が困難なことと、気候的に雨などで作業が遅れることで採用する気運にありません。
この技能が要らないことと、天候に左右されないことから、重ね継ぎ手が一般的に使われています。 同じ理由で機械継ぎ手に興味をもったわけです。(日本でも重ね継ぎ手は許容されていますが、労働集約型の仕事なので廃れてしまっています)
1997年に台湾の建設現場で行っていた鉄筋組み立ての写真で説明します。
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これが完成模型で、建築現場近くにモデルルームを設け、販売活動をしていました。 |
組み立てが完了した、主柱です。これを1階ずつ立てて上部階へとコンクリートを打ち込んでいきます。
柱の断面が手前側で小さくなっているのは、反対側にある部分に差し込んで結束線で止めるためです(この方法を重ね継ぎ手といいます) |
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組み立て中の主柱です。このように手作業で組み立てていきます。 |
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上の写真の左のほうです。鉄筋の端部はこのように不ぞろいですが、最後に切断機で切り揃えられます。て |
補助筋の取り付け
補助筋は日本では新耐震設計では間隔10cm以下とされています。(その前は30cm以下でした) 曲げて主筋に取り付けるときの曲げ角度は日本では270度以上で曲げることになっています。 |
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阪神の事例から鉄筋コンクリート構築物の安全性には、補助筋が重要な役割を果たしており、昔の基準(間隔30cm)で作られたものに、倒壊が多く発生しています。
また取り付け部の曲げ角度不足による補助筋の効果が失われた例も報告されています。
それにしても、西宮で震災後に立てられている、このマンションと比較して、鉄の使い方がいかにも少ないですね。
他の国で、大きなビルの建築現場で、まるで鉛筆の芯のような鉄筋を使っているのを見たこともありますが、鉄筋コンクリート造は鉄筋とコンクリートが相まって役割を果たすことで、成り立つものです。 寿命50年以上を誇るためには、設計と施工過程における品質管理が重要であることを、今回もまた教えられた地震です。