電力会社の隠蔽事故について
東京電力から始まり東北、中部電力に及んでいる設備異常隠蔽問題について、異常なほどの過密報道がなされている。東電は止む無く経営陣の刷新により遺憾の意を表明した。確かに問題は原子力であり、放射能被爆に特にアレルギーのある国民性(本当かな)の点から、問題の徹底究明をあらゆる切り口から行うのは当然のことであり、加えるに一種の独占企業としての電力会社の永年の横暴さがあったればこそ、その反動としてマスコミをや一般市民の餌食になっているようにも思う。企業としての責任問題はさておき、技術の面から見たとき今回の事故に対する対応について納得できない点が多々ある。(報道された範囲からの情報しかないので外れているかもしれないが) |
事故発生原因はオーステナイト系ステンレス鋼特有の応力腐食割れであろう。この割れを完全に防ぐことは不可能に近い。発生することを前提にした検査体制と補修方法を持つべきものである。最近の検査技術は何処まで進んでいるのか判らぬが、一般的には先ず浸透探傷により疵の有無を目視検査し、クラック部が見つかれば深さを測定する。疵深さは疵が無くなるまで削って深さを測るのが最良である。(どうせその深さまでの肉厚は無効なのだから)次善の策として超音波探傷で深さを測定する方法があるが、これは測定することで、どのレベルの対応をするかと言うことを判断するためのものである。ただ、深さの測定は標準試片との比較で推定するので誤差が生じやすい。 浸透探傷の浸透作業を外注とすることに異論は無いが、少なくとも検査は発注元同席で行うか、後でインディケーション部のみを発注元がチェックするのが常識である。 とにかく、応力腐食は避けられないものであり、予防保全の為にクラック検査をするのであるから、検査結果に基づいた処置方法を標準化しているのが普通である。この標準化の実態がわからぬが、(まさか無いことは無かろう)この処置方法の妥当性についての検証が精査され、公表されることが必要なのではなかろうか。 クラックの存在と無処置或いは報告抜きの補修のみがセンセーショナルに報道されることに疑問がある。原子炉等規正法で「運転に支障をきたす恐れのある故障」は国に報告義務があるとされている。どうしてこのような恣意的に変わりうる基準がまかり通っているのであろうか。定性的な監督しか出来ないのであれば監督官庁など存在価値が無い。 |
検査結果を改ざんしたという技術者としてあってはならない事が行われていた。改ざんを行ったと言うことは、悪いデータと認識したことを意味し、お上への報告の必要性の判断とは区別すべきものである。データの信頼性を如何に向上させるかと言うことは技術者にとって永遠の課題であり、少なくとも担当技術者はありのままのデータを出したのであろうが、どの段階/階層で何を基準に隠す判断(安全との認識)をしたのであろうか。判断基準無しに決定することなど、責任ある企業としてありえないことである。経営者が退陣すれば済む事ではない。その判断基準の中身と承認者の責任を明らかにすべきであろう。 原子力は特殊な部門で仲間意識と技術力を過信した事が一因との会社発表は噴飯物である。そもそも、原発を人口過疎地に立地すると言うことは、安全性に幾ばくかの不確実性があるからである。それだけに重要性に応じた(仲間外れにしない)組織的体制が必要なのである。特殊部門になったのは社内の環境が生み出したものであろう。いずれにせよ原子力と言うセンシティブな問題には公正な情報の公開が最低の社会的使命である。 電力会社の「驕り」体質が問われているのである。独占企業ゆえどこかの乳業会社とか食肉会社と同じような責任の取り方では済まされないものである。 |
一番問題があるのは監督官庁及び政府である。あいまいな報告の義務付け、通達に対するフォロー不足、まして告発があってからの空白時間の長さ、一体誰がこの混乱事態に対して責任を取るのであろうか。白黒の決着を避け八方美人的曖昧さでのらりくらりしているうちに、台風は過ぎ去り時間が経てば担当者は昇進し課題から離れることができる。農水省の狂牛病問題、外務省(あれこれ多すぎて書く気も失せる)財務省(長銀問題)を始め、無責任体制が目に余るのは私だけであろうか。監督下の企業が反社会的行動により経営陣の退陣をする事態に監督官庁は一体どのような責任を取るのであろうか。大臣なんてどうせ御輿の上に座っているだけ、担ぎ手の責任が問題だと思うのだが。 |
原発を避けていては現在の社会生活は維持できないであろう。反原発運動を単なるアレルギーとみなすのではなく、理解者にするためにもあらゆるデーターの公表と夫々の切り口からの参画を可能にするような体制確立が必要であろう。規制に規制を積み重ねるのではなく、徹底した公表・公開を図り賛否両面からの感情におぼれない運営管理の場が出来ないものであろうか。 |