油井掘削用シームレス鋼管

2006/5/4

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藤井資也殿

拝啓 時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。 千葉県在住の山田でございます。
貴殿のHPを拝見することを楽しみにしております。

さて、近時のエネルギー価格の高騰による油田・ガス田の新開発ラッシュに伴いシームレスパイプの生産設備がフル稼働しても注文に応じきれず、住金、JFEともに設備の増強を行うとのこと。

一方、報道や新日鉄のHPを見る限り、シームレスパイプ需要拡大対応に関する記載は一切見られません。

新日鉄は八幡のシームレスを休止し、住金に丸投げをして、現在シームレスを製造しているのは光鋼管部の熱押工場と東京製造所のみと認識しております。

数年前、新日鉄と住金の間で、シームレスとステンレスを譲り合いを行ったときにその時点では、新日鉄に利があると考えておりましたが、一方でエネルギー価格の動向によってはシームレスを住金に譲渡することは危険であるとも考えていました。

一方で、当時の社会常識で「原油は政治の道具」、一時的な原油価格の高騰はあっても恒常的な価格高騰はないとのことから、シームレスパイプは長期的なスパンで見れば赤字品種で新日鉄として八幡のシームレスを稼動させる価値はなく、光と東京で小規模に製造するのが得策と千速社長が判断したのか。(関係者筋によると、八幡のシームレスはオイルショックで他社が丸儲けしたあとに稼動した工場で遅きに失して慢性赤字であったとの証言あり)

また、製品技術の進歩から、高コストのシームレスでなくとも電縫鋼管やUO鋼管でも油田・ガス田用として利用可能と判断したものなのか?

確かに、光鋼管部のHPを見る限りは、電縫鋼管が油田・ガス田用として紹介されてはいますが…。

現在のエネルギー価格高騰によるシームレスフル稼働との報道で、住金やJFEばかりが脚光を浴びており新日鉄が完全に影に隠れているのが私としては腹立たしいところではあります。

赤字品種から撤退し、利益を稼げる部分に重点投資を行う(あるいはシームレスの代替品として電縫鋼管やUO鋼管で可能)との千速社長の経営判断は長期的に見て妥当なものなのか?

それとも、八幡のシームレス休止、シームレスの住金への譲渡は千速社長の判断ミスであったのか?

シームレスパイプの新日鉄・住金の技術力の問題も含めて専門家であります貴殿の見解をご教示いただければ幸いです。
                                                 敬具

これに対しての返事

確かにシームレスを製造しているのは光の熱押と東京製造所だけです。 油井用のシームレス管は掘削用に使われる物が主体です。(殆ど全てと考えて良いでしょう)
残念ながら、油井掘削用のシームレスは上記2工場では作れません。これを狙って八幡に作ったのですがご指摘のように休止しました。

油井の操業には掘削用以外に鋼管は種々大量に使われます。これらは品質管理をしっかり行った電縫鋼管やUO鋼管で充分です。
従ってテレビ等で報道されているシームレス管は掘削用の物です。

この掘削用は非常に高度な品質管理を行う物で、全世界でこれを作り得るのは4社しかありません。(10年前の話から八幡を除くと) 20年ほど前には原油価格が30$を越すと油田開発が盛んになり、鋼管の発注も増えました。従って現在の価格では笑いが止まらない状態になっていることは容易に想像が付きます。

それぞれが競争力を失った製品を単にGIVEUPするのは面子が許さず、格好な相手が見つかったと言うことと理解しています。八幡のシームレス設備は当時実用化していなかった新技術をベースに作りました。今にして思えば既存の技術で作るべきだったかもしれません。他の後塵を拝したくないという社の特質が災いしたのかもしれません。

要はシームレスは如何にして材料の中心に健全な穴を空けるのかがポイントです。誰も公表しないので闇の中ですが、私はこの選択を間違えたのではないかと思っています。

油井掘削用途の需要は増えるという感覚は当時からあったので、シームレス設備を廃止するとき、需要減退と判断したとは思えません。採用した新技術の評価の結果と思っています。

基盤技術の弱い(八幡鋼管しかなかった)シームレス分野に、新技術を持って参入しようとした判断ミスでしょう。再度この分野に進出することはないでしょうから、指を咥えて見ているしかありません。もし販売品目に加えたければ、今はやりのM&Aでしょうが、保守的な体質故にそれも望み薄です。
世の中に日に当たっていない技術は浜の真砂に匹敵するほどあるでしょう。これを評価して採用を決めるには、コストもかかり計り知れない努力を必要とします。早い話が現在の電炉業の隆盛は高炉メーカーが実用化したCC技術がベースです。これとて八幡で最初に設置した設備は失敗作でした。その材料の問題点を追求して解決したからこそ完成した技術です。

認知症にリフォームを勧めるに似たIT業、汗を流す事を軽視するファンド業・・・「ものつくり」しか知らない私には別の世界が展開している今日この頃です。