Mittal SteelのArcelor買収について思うこと  
Mittal Steel(生産量世界1位)によるArcelor(生産量世界2位)の買収がどうやら実現しそうとのこと。Arcelor経営陣のどたばたで、対抗策としての露セベルスタリとの合併が一部株主の反対で(2/3の株主はこの合併に賛成だったとか)違約金を支払ってMittalに落ち着くとのこと。
一部の株主とは筆頭株主(5.6%)のルクセンブルク政府、3.4%を保有するスペインの鉄鋼系大株主、アリストレイン家等が中心のようである。

ここで質問:1)株主の権利は数より素性を重要視するのか。2)違約金という会社への損害は誰が補填するのか。

Mittal SteelのオーナーであるMr.Mittal氏はカルカッタで鉄鋼販売から身を起こし、Mexicoの線材工場を底値で買い、製品を上手に売ることで成功し、その後次々に企業買収をして、今や世界一の生産量の会社のオーナーになった。(私が現役時代に共同技術開発で付き合ったInland Steelも確かMittal Steelの傘下になっているはず)インド人特有の商売上手だから出来た事だろう。
Mittal氏は毎年来日していて、神戸をターゲットにしている節はあるようだ。

世界1位と2位を合わせれば、日本の全生産量を超す巨大会社となり、その価格支配力は驚異であるし、至る所に影響が出るだろう。

日本の鉄鋼業は2002年9月に日本鋼管と川崎製鉄によるJFEグループの形成、同年11月に新日鐵、住金、神戸3社の株式持ち合い提携により高炉メーカーの再編・構造改革は進んではいた。しかしながら今回のMittalによるArcelorの買収は更なる改革を強要されることになろう。

高炉を起点にした一貫製鉄は、スケールメリットを活かすことができるため、今なお最も効率的な生産システムである。インフラを含めて1兆円近くの膨大な初期投資を要する高炉一貫製鉄所の新設は容易ではないため、世界でも最大規模の高炉を臨海地区に数多く保有している我が国鉄鋼業は、その優位性を今後も維持していくだろう。
また、日本の鉄鋼産業は、国内ユーザー産業からの厳しい品質要求に対応する中で、製品・技術の国際競争力を向上させてきた。特に、自動車用鋼板、高張力鋼板、継目無鋼管、電磁鋼板などの高級鋼では高い競争力を有している。
しかしながら、原材料などの資源の多くを海外から調達している日本は、原材料の調達が困難になった場合など、製造コストや生産体制に大きな影響が出る弱点を包含している。
とは言え、最新鋭の工場は海外に多く存在し、国内の工場は老朽化していると言えよう。私が米国の同業者を訪問した時その工場の古さに驚いたが、今は後進国の技術者が日本の工場を見て、同様の感想を持つのではなかろうか。
史上空前の利益を上げた鉄鋼業は効率性を重視した投資を重点的に進めるべきであろう。
株式を公開している以上、株を集めて経営権を持ちたいという勢力が出るのは当然のことだろう。しかしながら、企業合併で対抗するのは間違っている。合併という物はついつい不平等を強いられ、効率性を阻害しかねないし、その犠牲になるのは従業員だ。

富士八幡合併により、釜石の高炉が閉鎖された。本来なら製品工場も廃止すべきだったが、政治的(なんと響きの良い言葉であろうか)判断で、八幡からからビレットを廻送して操業を継続することにした。
似たような例がArcelorと合併したCockerillの高炉休止に関する記事を見つけた。 Arcelorですらこのような決定をしながら経営していて今回の騒動である。

日本的経営でMittalの次のターゲットになった時どうするのであろうか。私の希望としては、国内企業の合併による防止策でなく、また政府の力に頼るようなどたばたは避けて、条件闘争をして株主、従業員、需要家が納得する結論を出して欲しいもの。

まだまだ鉄器時代は続く、鉄のマーケットをグローバルに考えて経営するなら買収されるのも良いのではないか。稲山さんは鉄は国家なりと論じたが、世界戦略を持たない国家に似たような経営からは脱却して欲しいと思う。

インド人の物の考え方についてはここに詳しく出ている。(今から勉強しても遅いように思うが)