強度不足鋼材を使用したエレベーター問題について

2007/7/15


フジテックが製造したエレベーター12000台強の内560台が強度不足の鋼材が使われていたことが問題になっている。
− 国交省WEB −

詳しいことは鋼材納入元のJFE商事建材販売とフジテックの契約そのものを精査することで明らかになるだろうが、鋼材の製造、品質管理に携わった一人として思うことを述べてみたい。

新聞報道から両者の言い分を整理する

フジテック SS400を使うはずだったが、実際には強度が2/3程度で値段も5〜6%安いSPHCが納入され、検査証明書はSS400と偽装されていた
JFE商事建材販売 フジテック資材部の要望に沿った物。SS400は市場流通量が少なく納期を急いだフジテックから市中の鋼材で良いからと要請され、検査証明書も偽造した

SS400/SPHC規格の比較(規格より抜粋)

SS400  JIS G 3101 一般構造用圧延鋼材
  (Rolled steels for general structure)
(1) 適用範囲
  この規格は、橋、船舶、車両その他の構造物に用いる一般構造用の熱間圧延鋼材について規定する。(鋼板、鋼帯、形鋼、平鋼及び棒鋼)
(3) 化学成分
 
C Mn P S
0.050以下 0.050以下
(4) 機械的性質  板厚5mm以下のみ表示
 
種類 降伏点又は耐力 引張強さ 伸び 曲げ角度 曲げ半径
SS400 245以上 400〜510 21以上 180° 1.5t
SPHC  JIS G 3131 熱間圧延軟鋼板及び鋼帯  
  (Hot-rolled mild steel plates,Sheets and strip)
(1) 適用範囲
  この規格は、一般用及び絞り用の熱間圧延軟鋼板及び鋼帯について規定する。
(3) 化学成分
 
C Mn P S
0.15以下 0.60以下 0.050以下 0.050以下
(4) 機械的性質 板厚3mmと仮定
 
種類 引張強さ 伸び 曲げ角度 曲げ半径
SHPC 270以上 29以上 180° 密着
この比較から明らかなように、SS400は強度部材として作られた汎用品、SPHCは曲げ絞り用或いは化粧板に使われる物で、柔らかい材質を狙った物で、常識的にはSPHCを強度部材に使うことはあってはならない物である。
とは言え、SS400は構造物で鐵であればあとは何でも良いと言う場合に使われるもので、品質管理上もグレードの低い材料である。(誤解されては困るが、製造現場ではJISに決められていない項目についても管理範囲を決め品質管理は行っている。グレードが低いというのは製造設備の性能から見て管理範囲を守ることが容易であると言うことである

コスト的には製造段階で差が出るとは思わないので、SPHCが5〜6%も安いという理由は思いつかない。(需要と供給の関係だろうが、SHPCが絞り用に使われるならばシワ防止のために降伏点が出ないように成分調整や工程での作り込みををせねばならず、技術的には上位にあるとも言える

検査証明書と鋼材の表示

鉄鋼メーカーから出荷する鋼材にはラベル、ステンシル等で製造番号が付けられ、それに対応したミルシートを発行している。
しかしながら、製品の梱包を解き、鋼材を切断したときに、当初付けていた製造番号がどのように継続されているのかは分からない。ミルシートも宛先は発注者であり、発注者が問屋の場合、どのように扱っているのかわからない。
鋼材問屋を経由した場合の現品管理とミルシートとの照合問題は課題ではある。 今回はJFE商事建材販売が検査証明書を偽造したと述べているが、発行者は誰になっていたのか。流通過程の問屋で発行するわけはないのでは無かろうか。

規格の転用について

SPHCは耐力の規定がないと言うことは、構造部材にはならない。(構造設計に使う強度は耐力である)軟質材を求めているわけで、このような用途は主として「板」である。(私は条屋なので、この規格については知らなかった)
SS材は強度下限を決めてあると言うことは、強度を求めているわけで、主として「条鋼」が多い。(条鋼屋ではSS材はなじみの鋼材であるが、板分野でのSS材の製造比率は知らない)
SS材は前述したように、鐵であれば・・・と言うほどの普及品であり、同じ鐵だからSPHCでも良かろうという誤判断があったのだろうか。
とは言え、SPHC材でもSS材の規格を満足するかもしれない。どうしても緊急に材料が必要というのであれば、公定の材料試験所でSS材としての試験を行い、その合格した試験結果を付ければ良かったのではないか。(メーカーは品質の狙い値を安全サイドに工程設計するのでこの確率は極めて低いが)  偽造して・・・と言うことは知っていたからであり頂けない。
SS材(強度保証材)を使う所にSPHC材(軟質保証材)を使うと言うことはあってはならないことである。鐵は読んで字の如く、金属の王哉で材質の作り込みが出来る物である。残念ながらどのように材質を作り込んでも、一般の人には鐵は鐵でその差は分からない。少なくとも鐵で生活している人はその性質を熟知して欲しい物。
安易な判断で金を失う(鉄)ことになったもの。

感想

これを受けて、あちこちでエレベータの使用を停止している。 安全率を考えれば過剰反応と思うが、 利便性を考えて設置した物が反って不便を生じている。 変な責任転嫁が横行し、世の中信じられる物が少なくなったと言うことか。
それにしても規制緩和と騒いだ産業界はどうしたことか。多発する不祥事を見ていると日本では規制強化による対応しかないのだろうか・・・と暗澹たる思いがする。
それにしても今回の発端は何だったか?内部告発なのか。構造改革を進め不正をただす観点から精査して欲しい物である。
 
2011/1/6  無規格材流通について調べていて上記の件の結末を見つけた。(國交省のWEB
強度の低い鋼材が使用されたと仮定して再度強度計算を行った結果、建築基準法に定める基準に対し強度が不足しているエレベータは無かった。 同じくエスカレータ・いす式階段昇降機にもなかったが、段差解消機についてのみ
45/292台について強度不足があった。
 
と言うことで蓋が閉められている。釈然としない結末だ。SHPC材の耐力を測定しての結論であろうが、安全係数は低くなっているはず。これらも闇の中である。