水圧試験偽装問題のショック

2008/9/11

7月上旬から8月末まで2ヶ月間何もする元気が無く頓死していた。特に体調が悪いわけでなく、なんとなく気力が出なくなったもの。何が原因だったのだろうと考えてみた。

6月にニッタイの偽装問題がニュースになり、お決まりのお詫び会見をテレビで見たが、そこで頭を下げていたのはかっての私の部下であった。

私が長年従事した分野であり、何らかのコメントをと書いては消しの繰り返しをしている内に 投げ出して放置していた。何もする元気がなくなり2年近く続けていた歩きも止めていた。

ところがテレビで見た無気力で仕事を投げ出した人(福田康夫)を他山の石として何とか気力を取り戻したいとこの問題を整理することにした。

水圧試験偽装について

報道によると、水圧試験は生産能力を阻害するので、工程を省略したものらしい。
通常水圧試験装置は製造ライン内に組み込まれており、正常に製造されるものについて試験を省略することは考えられない。
ところが今回の偽装は、水圧試験を一切行わなかったことが発覚したものである。

水圧試験のプロセスと問題点

1)鋼管の両端にシール付きのヘッダーを差込む
  鋼管を水圧試験器の所定の位置まで運び、鋼管をクランプにて保持し、両管端にシール付きのヘッダーを差し込む。ヘッダーの作動時間を短くするためには、鋼管は所定の長さに切断し、管端部はシール破損防止のために面取りもしなければならない。ここで注意すべきは、試験材の長さは一定の長さであることが必要であるが、材料と製品の関係で必ず短尺の成品が生まれるがこれをどう処置するかと言う問題が残る。
2)低圧で水を充満する
  空気を完全に水で置換することは非常に困難である。結構時間が掛かる(能率問題が発生する)空気を完全に追い出すことは至難の業ではあるが、追い出しておかないと異常事態の発生が懸念される。
3)水に高圧を掛け、水漏れを目視検査する
  噴出するような水漏れならいざ知らず、滲むような水漏れ(涙漏れと言う)を目視で行うのは、そもそも信頼性が低い。鋼管の表面を濡らしていると見難いし、クランプ部も見難いし、ヘッダーに差し込まれた鋼管の両端部は見ることすら出来ない。この点に製造を担当している技術者に水圧試験を軽視する素因があるように思う。
完全に水圧試験を行うならば、管端部を水圧試験後に再切断仕上げをしなければならないが、そこまで考えている製造ラインは私の知見にはない。(現役を離れて20年ほどになるので最新のラインは知らないが・・・)

水圧試験に代替できる検査

能率低下と信頼性不信の点から水圧試験に代わる試験法は種々検討され、それなりに実用化されている試験法はある。しかしいずれも水漏れと言う単純な欠陥を完全に検出すると言うものはない。その点で信頼性が低いと思われながらいまだに水圧試験が使われているのである。

現在の製造技術水準では水が噴出する様な欠陥は出来ないと思われ、欠陥が出るとすれば涙漏れであろう。涙漏れを検出するなら水圧試験よりはるかに検出能の高い検査法はある。しかしこの検査法で水が噴出する欠陥を完全に検出できるかと言われれば疑問はある。

JIS規格との関係

水圧試験が有名無実の試験になっていることは関係者の知るところであろうが、誰もこの問題に直面せずJIS規格を放置したことが今回の問題になったものと思う。

現在の製造水準で鋼管を製造し、水圧試験で欠陥が検出されたと言う実例はないと思う。この実績は貴重なものであるが、何処にも表れない実績である。これをしっかりと把握した上で規格改定を提案すべきである。

水圧試験とは別に、欠陥検出には非破壊検査を行っており、 水圧試験では検出不可能な欠陥を見つけている。だからといって水圧試験を省く言い訳にはなりえない。(非破壊検査では噴出するような水漏れ検出には疑問がある )

噴出水漏れのような酷いもの(貫通欠陥)は製造工程で防ぎ、むしろ涙漏れのような水圧試験で見つけにくいもの乃至は非貫通欠陥の検出に 重点を置くという考え方を規定すべきと思う。

JIS規格で受注すれば、水圧試験が規定されておりこれを省く事はできない。水圧試験が製造能力上のネック工程でコストおよび生産能力上省きたいならJIS規格外(独自規格)で受注すべきである。

長年にわたる製造技術者の品質向上にかけた努力が、このようなところで失われるのを見るのは辛いことである。勇気を持って独自規格を作るべきであったろう。 JIS規格を要求されればコストアップ負担を申し出るべきであったろう。 残念である。