アルカリ骨材反応に起因する鉄筋の曲げ加工部の破断原因について  
セメント会社の研究員でさる大学の院生から鉄筋コンクリート構造物で発生する鉄筋の破断現象について質問があった。

鉄筋の破断は,アルカリ骨材反応というコンクリートの膨張現象に起因するものですが,異形鉄筋の曲げ加工部分で発生しており,原因の一つとして,曲げ加工時のリブ埋没による初期亀裂と,加工硬化,時効硬化も影響をしていると考えています.
このような現象が生じる鉄筋は昭和60年以前のものであり,当時の鉄筋事情がよく分からないことと,なかなか,異形鉄筋を詳しく論じている文献等がないことなどから,いまひとつ,研究が先に進まない状況になっている中,
鉄筋の記事を見つけた

> このような現象が生じる鉄筋は昭和60年以前のものであり,
の部分について、1985年頃は高炉製の異形棒鋼と電炉製の異形棒鋼が流通しており、主体は電炉製だったと思います。高炉材は特殊な用途にしか使われてなかったと思います。(成分分析をすれば簡単に区別ができるでしょうが)
メーカーとしては、強度が規格に入らねばならないので、そのための成分設定をそれぞれ考えて作っていたはずです。これら成分コントロールは当時は炉外精錬がまだ普及段階だったと思うので、各社苦労したはずです。成分分析をすれば降伏点をいかにして規格に合わせようとしているかを考えることが出来るでしょう。

高炉材の場合にはトランプエレメントが少ないので、良質なものがさほど苦労せずに作れますが、電炉の場合にはトランプエレメントの影響をいかにして消すかに苦労したものと思います。

加工硬化、時効硬化などが影響しているのでしょうが、アルカリ骨材反応によるコンクリートの膨張現象で鉄筋が破断する事は私にとって初耳で驚いています。

貴兄の論文を読んだ感想を述べさせてもらいます。

破断事故はフープ筋の曲げ部に集中していると考えてよいのですね。この曲げ部の内側(圧縮側)に初期亀裂が入り、それが進行し破断に至るということですね。
初期亀裂は貴論文のまとめ1)に記載のように節形状と曲げ半径に依存する点は同感ですが、材料中の巨大介在物も関与しているのではないでしょうか。
1970年代の電炉業には連続鋳造の実用化が進み、70年代後半には、炉外精錬が普及した時期になっています。
http://www.mrfujii.jp/products/efprocess/strategy.htm
この時期に新しい工程が入り、生産活動を続けるとなれば介在物に配慮していたとは思えません。ただし、この巨大介在物の測定は非常に手間のかかるもので、JIS法だけでの測定では判然としないことがありますが・・・。
http://www.mrfujii.jp/miscell/until60/42valvespring.htm

さらに、圧延設備から考えると、フープ筋のように比較的小径のサイズは太手電炉メーカーではなく小規模電炉の世界です。となれば、上記炉外精錬・連続鋳造も導入されてないかもしれません。このように考えると、材料中の巨大介在物の影響は無視できないと思うのです。

次に曲げ部に生じたクラックが破断に至る件に関して、曲げ加工による初期クラックが成長して破断に至る過程の検討がよくわかりません。 曲げ加工により加工硬化した部分にどのくらいの延性があるのか、またその延性は時効硬化によってどのように変化するのか。これらにトランプエレメントの影響がどのように加わるのか。

曲げ部に繰り返し応力が働き疲労破壊したとは考えられませんか。アルカリ骨材反応については素人なのでわからないのですが、どの程度の膨張をするものでしょうか。その膨張量が上記延性の範囲以上なのでしょうね。

ともかく曲げ半径を規定通りしていたら破断は起きなかったと考えてよいのでしょうか。

勝手な思いつきを述べました。今このような材料の研究をしている研究者を私は知りません。電炉業には研究者はいませんから、電炉工業界に調査を依頼するという方法があるかもしれませんね。

> 介在物については,この問題を論じるときに頻繁に見聞きするキーワードなのですが,実際に,構造物で破断が確認された
> 鉄筋の破断面に介在物が確認されたという報告は,小職の知る限り,目にしたことはありません.
> 疑いはあっても証拠が掴めていないという状況です.


破断面に介在物が確認できることは極めてまれでしょう。曲げ部の内側に発生する初期亀裂が主要因とすれば、そこに介在物の関与が疑われます。初期亀裂部のミクロ的調査を重ねれば見つかるように思うのですが・・・。
初期亀裂が曲加工によって発生したとして節部形状が主因と言うことには異存ありませんが、その発生に介在物が関与しているように思えてなりません。

> 鉄筋Dを引張試験に供した際,軸方向に裂けるようにして破断した供試材が4本中1本だけありました.

これなどは、偏析に起因したものではないでしょうか。電炉厚板の2枚割れが話題に上がったことがありましたが、これと同じ状況ではないでしょうか。
当時の中小電炉の製鋼・鋳造技術を考えると、偏析・介在物が鋼材性能の極限近くで関与したと考えるのが妥当ではないでしょうか。特にDは偏析・介在物の調査が必要でしょうね。

> 曲げ加工と時効硬化によって,材料硬度が増加していることは,現在流通している異形鉄筋を曲げ加工した供試材で行った
> ビッカーズ硬さ試験で確認されています.


初期亀裂が破断に至る過程についてですが、曲げ加工したときの加工硬化と、それを時効硬化させた時の変化はわかっているのでしょうか。その時効硬化にトランプエレメントの影響があると思うのですが。表2の鉄筋の成分分析についてはトランプエレメントをもっと広く調べる必要があるように思いますが・・・。

> 周りはコンクリートに囲まれていますし,引張や圧縮を直接受ける部材ではないので,疲労ということは考えにくいと思います.

コンクリートの膨張による応力が破断の主要因なのか・・・に関して、疲労破壊を考えたまでです。補助筋とはいえ主筋がコンクリートの膨張による応力を受けたとき補助筋にも相応の応力がかかり、車の通行による振動が応力変動になるとは考えられませんか。 疲労破壊は低い応力下でも起きるので気になったものです。

> 普通鋼電炉工業会の平成16年の報告書の中に,
> 特別調査とした「アルカリ骨材反応が補強鉄筋に及ぼす影響に関する調査」とい
> うものがあります.
> その中では,鉄筋材質調査のまとめとして,(以下概略)
> 1.化学成分,機械的性質はJISに照らして問題なし
> 2.90度1D曲げで付根部に小さいき裂を確認
>   曲げ戻し試験で85本中12本が破断(節付根部分)
>   節付根部のアールが小さいことが起因している
>   節形状の改良が必要,曲げ加工半径はJIS規格以上が必要
> 3.シャルピー試験とN(窒素)含有量の関係 → 一般的
> 4.曲げ加工部のビッカーズ硬さの関係
>   加工硬化,ひずみ時効による脆化現象確認
>   曲げ半径が小さかったり,加工機の不備等で
>   鉄筋内側の節が著しく潰れたり,傷が生じると
>   大きな応力を受けた場合に破断に至る可能性は考えられる.


電炉工業界もこの問題を取り上げていたのですね。
1.についてはこのように書かざるを得ないのでしょうが、JISさえ守ればいい  というものではないはず。
2.亀裂の確認と曲げ戻しでの破断の要因を節形状にしているが説得性にかける。
  ・・・クラックと破断の要因調査をしていない。
3.4.についてはコメント省略

とにかく1970年代の材料と現在の材料では溶解精錬作業と鋳造作業が大幅に改善されているので、当時の材料についての調査が必要なのだと思います。

介在物の測定は簡単ではありませんが、巨大硬質介在物(主として酸化物)の集積を検査面積を広げてカウントするしかないと思います。その点ではJIS法の測定はあまり意味がありません。