杭打ちデータ改竄問題について

2015/10/29

横浜のマンションが沈み込んだ問題で、請け負った旭化成建材と施工管理者を非難する報道が連日続いている。今日は旭化成建材の北海道の工事で杭打ち工事のデータ改竄が報道された。5年前の工事でデータが残っていたことはむしろ管理が良い事の証ではなかろうか。

報道で知り得た範囲しか情報が無いし、土木工事については門外漢なので黙って状況を拝見していたが、あまりにもスケープゴート度が行き過ぎており、問題の本質を隠そうとしているように思えるので、私見を述べることにした。

新聞記事から、同業者からの「データ改竄は理解できない」「杭打ちは住宅工事の最重要部分、なぜデータを改ざんするのか理解に苦しむ」などの発言や、「改ざん(偽装)を行ったのは、すべて一人の現場代理人であること」などが強調されている。これらが同業者の真意とはとうてい思えない。マスコミが無理矢理しゃべらせたコメントではないのか。

旭化成建材が10年間に手がけた3040件の中に、当該管理者が拘わった工事が41件あるとの報道に国交大臣や県知事などが「けしからん」と息巻いている。
確かに基礎工事なので手抜きやデータの改竄は許されて良いことではない。しかしながら特定の会社や管理者を責めるのでなく、業界全体の問題として原因と改善策を考えるべきではないのだろうか。

阪神大地震の時、御影に住んでいて阪神高速の倒壊を目のあたりにしたが、柱に使われていた鉄筋の接続(ガス圧接)不十分による鉄筋破断ばかりが目に付いた。 また当時の新聞報道では建造物の鉄筋破断も圧接部からの破断が多かったと出ていた。これらは手抜き作業の典型である。

東北地震の時には液状化による被害が海岸埋め立て地以外に内陸の湖の埋め立て地でも発生した。これらの責任の所在は誰も言い出していない。その他鉄鋼スラグを宅地に使ったりして、時間が経てば免責される可能性が高まるとの考えが一般的な考えになっているように窺える。

問題のマンションの所在地を見に行ったが、鶴見川の後背湿地で多摩丘陵からの土砂が堆積しているところで、多摩丘陵の一部でもあり、強固な地盤がフラットとは考えられない場所である。図1は鶴見川(赤囲み)とマンションの位置(黄色囲み)関係だが、間隔は5〜600m程度の近さである。図2はマンションの配列で、問題のウエストコートが川の方向に傾いている。
 

図1

図2

今回の問題で明らかにして欲しい事項は

1)杭打ち工事の契約時、この地域の地盤までの深さを測定した責任の所在。
この付近一帯は以前は工場地帯だったと思う。工場を取り払いフラットな地形に惑わされて、杭打ちの深さの測定点の検討がおろそかになったのではなかろうか。強固な地盤は丘陵地帯の丘が砂の中に沈んでいると考えれば、その深さは場所によって相当な違いが出るだろう。その差位をどう考えたのだろうか。このマンションは4棟あるが、傾いた棟のみが川の流れに直交しており、川に近い方が沈み込んでいる。当然堅い地番に届かなかった方が深さが深いことになるが、工事契約前の知見は如何だったのだろうか。

2)準備した杭の単長はいくらだったのか、どの会社がどのデータを元に調達したのか。
鋼管メーカーは注文に応じた長さで生産する。杭を打ち込んで長さ不足になったとき、継ぎ足しを行う方法はあるのだが、時間とコストとその継ぎ足す鋼管が必要になると言う問題がある。また打ち込んで長さが長すぎたときには、切断するのだがコストアップになる。杭に使うような鋼管は、特殊な用途で鋼管製造メーカーから考えれば、受注生産品である。広く汎用的に使われるサイズは、店売りと称して問屋で保管販売されるものもあるが、保管料も付加され価格は高くなるので。杭に使われるような材料は通常店売りにはならない。(余剰生産品を店売りにすることはあるが)従って追加発注は入手するまでに月単位の時間が掛かる。
11/2早朝のNHK番組「視点・論点」では使われた杭は既成杭と言われる工場生産品で現場では継ぎ足すことの出来ない杭だったとの事だった。この点から考えても杭準備のための情報不足だったと考えられる。 打ってみなければ固い地盤に達したかどうか判らぬのに継ぎ足しの出来ない杭を使うことにした責任は大きいと思う。

3)杭打ち本数と位置についての安全率はいくらだったのか。
素人考えだが、安全率が低かったのではなかろうか、また沈下した建物は沈下側と反対側では建物の階層が違い重い方が沈んだようにも見える。
以前は杭の本数は余裕を持って打っていたのではなかろうか。今回のような打ち込み不十分は以前にもあったにも拘わらず、余裕によって問題が起きにくかったのではなかろうか。

何となく感じることは、事前の調査に落度があり、納期・コスト優先で杭が岩盤に未到達でも継ぎ足しの時間・材料が無く、安全率があるのだろうと独りよがりをしたこと。施工管理者に任せきりで、本来管理すべき技術者は経験不足と権限不足(おかしいと感じたときの処置権限の問題)で機能しなかったのではないだろうか。これらを業界全体の問題にせず特定の会社に責任を負わせて乗り切ろうとしているように思えてならない。
また、最近はアナログよりもデジタルがデータ処理として扱い易いにも拘わらず、未だにアナログデータに頼っている業界は遅れているとしか言えない。紙切れになったとか、雨に濡れてプリントが使えなくなったとかビックリする話だ。