(講演概要)

1.はじめに

  世界の鉄鋼業では近年、米国を中心にミニミルの台頭が顕著となっているが、それには還元鉄の活用等原料の多様化と、薄スラブ連鋳機、直流式電気炉、二次精錬炉、連続鋳造における電磁撹拌処理さらに各種制御技術および自動検査装置等の製造技術の進歩が大きく寄与しており、製造品種も拡大を続け現在ではほとんどすべての製品が製造可能となっている。
  一方、国内においては、粗鋼生産に対する電炉鋼の比率33%(平成 5年)と米国よりも低いが、10億トンを越える鉄鋼備蓄量から発生する老廃屑(市中の商品や、設備に投入されてその耐用年数の終わったもので回収される鉄屑)も年々増加の一途をたどっており、この老廃物を資源として活用する電炉鋼の比率は増加を続けるものと思われる。
 電炉鋼による鉄鋼製品の製造は設備投資規模、市場要求品質、市場規模等の観点から小断面条鋼製品に始まり、製造プロセス技術の発展とともに製造サイズ、品種の拡大を続け現在に至っている。本編は現在の電炉業の条鋼圧延の実態と課題について纏めた。

  

2.電炉材と高炉材

  電炉材は好むと好まざるにかかわらず高炉材と比較される。電炉材は主原料を鉄屑に依存しており、鉄屑の品位が製品の特性に影響する。
  現在、構造物、自動車、家電製品等鉄鋼使用製品のすべてにおいて、防錆処理が多様化したことと軽薄短小多機能化の時代要請から非鉄材料の占める割合が年々増加している。
このことは老廃屑の品質が劣化し、電炉製鋼では除去できないCu,Cr,Ni,Sn 等トランプエレメントの混入が多くなることを意味している。
 これに対し、通産省と鉄鋼業界とで、鉄屑中の不純物を除去する世界でも初めての技術を確立する次世代の革新的な製鋼プロセスの技術開発に取組み始めており、これは、省資源・省エネルギーに寄与することはもちろん炭酸ガス発生増による地球環境問題の解決にも寄与することとなり注目されている。2)
  ともあれ、Cu、Cr、Ni、Sn 等のトランプエレメントの存在は鋼の特性に影響をあたえ、この影響を如何にして軽減するか、避けるかあるいは利用するかが電炉プロセスの課題である。
  当社の高炉ー転炉材と、LF二次精錬あり、なしの電炉材の製品成分を見ると、高炉材に比べ電炉材はトランプエレメントとNがやや高く、SはLF工程適用により低減可能であることがわかる。
  鋼中の介在物については、電炉は高炉と全く同じように出鋼後、必要ならば炉外精錬炉で介在物の浮上促進や、溶鋼再酸化の低減ならびに温度成分の均一化を図ることができるので、電炉品が高炉品に比べて介在物が多いという本質的な理由はない。
  このように見ると電炉品と高炉品の違いは、Cu、Cr等のトランプエレメントとNの違いということになる

   

3.条鋼製造プロセス

3.1 製造品種

  条鋼製品とは条(すじ)状に熱間圧延された鋼材全般を指し、その種類は形状によって、棒鋼、線材、形鋼および軌条などに分けられる。3)

  その中で、普通鋼電炉における主力製品は棒鋼では異形鉄筋棒鋼、平鋼、形鋼では一般形鋼、H形鋼等である。

  そのサイズは圧延設備の能力から当初は細物およびベースサイズ、ジュニアサイズといわれる比較的単位質量の小さいものが主体であったが、設備の更新・新設および技術の進歩によりサイズ拡大を図り、従来高炉サイズといわれたサイズも電炉で生産が可能となり電炉シェアの拡大に繋がっている。

3.2 製造技術   昭和40年代は電気炉製鋼設備と高電力操業等製造技術の進歩がめざましく、生産能率は格段にあがり、しかも連続鋳造の実用化も大いに進み分塊圧延を経なくても良質の圧延用素材を安価に造ることが可能となり、高炉プロセスに対し電気炉製鋼―連続鋳造―圧延というプロセスが競争力を持つに至った。
  昭和50年代に入り助燃バーナーの導入、酸素富化、高電圧・高力率操業が一般的となり、さらに電気炉から精錬工程を炉外に分離する炉外精錬法が採用され、生産性・品質は一層向上した。

  連続鋳造を採用し、分塊工程を省略することは、分塊工程がそれまで分担してきた条鋼特有の圧延設備が要求する様々な断面の成形を連続鋳造または圧延で負担することが求められ、形鋼分野では連鋳単一サイズビームブランクからの多サイズ圧延、連鋳スラブからの形鋼圧延および連鋳ブルームモノサイズからの多サイズ圧延等の新技術が開発実用化され7)、小形棒鋼の分野では連続鋳造による小断面・長尺ビレットが実用化された。

  また同時に連続鋳造技術の発展により鋳片の表面性状が大幅に向上し、鋳片無手入れ使用を可能としたことが特筆される。このことにより連鋳プロセスの採用は工程の省略とともに、粗鋼から製品までの通算歩留の向上、省エネルギーに大きな効果をもたらした。

3.3 製造設備  電炉業における一般的な条鋼圧延設備の特徴は、
(A)まず電気炉、連続鋳造、圧延設備が一つのセットとして設置されることにある。
(B)ついで製造する鋼種が限られていることである。
(C)このことは工程の連続化が容易に図られ、先に述べた連続鋳造プロセスのメリットを十分に享受できることを意味している。
最近設備された代表的な連続鋳造〜条鋼圧延の工程フローを見ると、各ミルともに省エネの観点から鋼片の加熱炉装入温度を高めるべく保熱ピットの配置、加熱炉への装入経路の複数配置等工夫を凝らしていることがわかる。
当社棒鋼工場における加熱燃料原単位と加熱炉に装入される鋼片HOT率を下図に示すが、HOT率が上がると燃料原単位が低下している。   最近では、HOT率100%の直送圧延も実用化しており、コスト低減に大きく寄与している。
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3.4 電炉鋼の圧延

  先に述べたように電炉鋼にはトランプエレメント含有量が多い傾向があり、これに配慮した圧延技術が要求される。熱間圧延で問題になるエレメントは CuおよびSn である。

  Cu は古くから熱間脆性元素として知られており、通常の含有量では問題ないものの、鉄屑中への大量の異物混入等不測の事態下でCu が増加するにつれて製品表面に微少割れ疵に起因する肌荒れをもたらし、さらには割れ疵の発生から甚だしい場合には圧延中の鋼材破断に至ることもある。
  影響の度合いは圧延比、製品形状、圧延条件等により異なるので各ミルそれぞれに上限値を定め原料配合に留意するとともに、圧延条件の最適化に留意している。

4.条鋼製品の品質

4.1 トランプエレメントの影響   フェライト・パーライト鋼の合金元素と引張強度の関係は数多くの研究者によって調べられているが、通常電炉材に含まれている程度のトランプエレメントの範囲では特に大きな影響はあたえない。
  しかしながら、全体としては強度を増加させる傾向にあり、各社ともそれぞれの圧延条件に対応したトランプエレメント元素を含む炭素当量(Ceq.)を設定し管理を行っている。
4.2 異形鉄筋棒鋼の成分と機械的性質   鉄鋼製品の品質は規格によって規定されており、条鋼製品に一般的に適用されているJIS規格には化学成分と機械試験値が規定されている。
  普通鋼電炉工業会電炉鉄筋棒鋼品質調査委員会が平成3年に電炉29社 34工場の鉄筋棒鋼の品質調査を行い「電炉鉄筋棒鋼品質調査報告書」2)としてまとめているが、規格適合性にはまったく問題はない。
4.3 異形鉄筋棒鋼のガス圧接性   鉄筋棒鋼の多くはガス圧接により使用されており、ガス圧接性は品質特性の一つとして重要である。このガス圧接が実用化されてからおよそ35年になる。
  電炉鋼に特有のトランプエレメントが圧接性に対して悪影響をあたえるのではないかとの懸念も根強く、長年にわたりこの調査が行われた。
  最近では昭和54年から55年にかけて行われた日本圧接協会と普通鋼電炉工業会の電炉異形棒鋼のガス圧接についての共同研究10)や昭和55年に、日本圧接協会による「鉄筋ガス圧接に関する資料収集報告書」11)等がある。
  その後、普通鋼電炉工業会電炉鉄筋棒鋼研究委員会が、昭和62年 3月電炉28社の製品について調査し、「電炉鉄筋棒鋼の研究」12)として集大成した。
 その調査では、電炉品の圧接性におよぼすトランプエレメントの影響を明らかにするため、微量元素を多量に添加した試験材も用い、自動ガス圧接装置の圧接条件を一定とし、Cu,Cr,Sn 等の元素の圧接性におよぼす影響に焦点をあてた研究を行った。その中からトランプエレメントに関連する事項のみを紹介する。
  圧接部の機械的性質、削り出し試験片による曲げ試験も全く問題なく、圧接部近傍のマクロ組織、顕微鏡組織もトランプエレメントの影響は認められなかった。
  トランプエレメントは今回の試験材に含まれる量以上には市販の電気炉鋼中には含まれないと考えられる。従って、電炉材は圧接性に対して全く問題なく使用できると結論された。
4.4 平鋼の板厚方向の機械的性質

  電炉平鋼はS等の微量元素が多いことから使用上、板厚方向(Z方向)の機械的性質、特に絞り値が重視される。この問題について日本鉄鋼連盟広幅平鋼委員会が昭和63年に詳細な調査を行った。

  これによるとZ方向絞りとS含有量には相関関係が認められた。
  この結果を踏まえて電炉工業会加盟の広幅平鋼5社は自主的にS の含有量を定め二次加工品の品質確保を図っている。
  このレベルは先に述べた電炉材の一般的な成分例に対し厳格であるが、炉外精錬設備でS値を管理することは可能であり、さらに、硫化物系介在物の形態を制御(Ca 添加等)して、Z方向の機械的性質を改善する手法等も導入されている。
  これらの対策を採用すればL方向、Z方向いずれの方向に応力が生じる部位にも、板厚40mmまで使用可能であろう
4.5 異形鉄筋棒鋼の寸法精度   異形鉄筋棒鋼の寸法精度は、節のデザインがメーカーにより異なっているので、径の許容差を規定することは実際上不可能であり、単位重量が品質管理上、取引上重要な意味を持っている。

  一本の鋼片から圧延される異形鉄筋棒鋼の長さは当社D25で約400m にもおよびその中ですべての部分が規格内になるよう製造管理に細心の注意を払っている。

4.6 形鋼の寸法精度   形鋼の品質はその用途から特に形状・寸法・強度が重要視される。
  これは、形鋼が一般に圧延された形状のまま構造の主体として使用されるため、形状が一定の標準内にあることが加工や組立には必要であり、寸法や強度は直接に構造全体の強度に影響するためである。

5品質の需要適合性

5.1 建築構造用圧延鋼材の規格化   電炉圧延形鋼はほとんどすべての製品がJIS規格の一般構造用炭素鋼(SS)または溶接構造用炭素鋼(SM)により製造されてきた。
  一方高い使用比率の需要分野である建築用について、建設省建築技術審査委員会の「鉄骨造建築物品質適正化問題専門委員会」の検討により「現行JIS規格品の材料の内部品質、形状、寸法については建築の用途によっては必ずしも整合しない場合もある」とし「関連規格の整備改訂もしくは建築構造用圧延鋼材の規格制定が必要」との答申が行われ、本年6月に建築構造用圧延鋼材(SN)規格が公示された。
 規格の細かい内容は省略するが、使用用途により鋼種グレードを定めトランプエレメントを規定したこと、寸法精度を見直したことが主要点である。普通鋼電炉工業会として、需要家のニーズを第一に考え、新規格の普及により需要分野の品質確保に貢献したいと積極的な対応準備を進めているところである。
5.2 普電工の品質管理マニュアル 平成3年に一部電炉メーカーの品質異常材が市場に出荷され、需要家に多大の損失をあたえるとともに、業界として関係先の信頼を失うこととなり、また社会問題としても注目を浴びた。
  この事態を重視し信頼を回復すべく、普通鋼電炉工業会に品質管理委員会を設置し、業界をあげた品質管理活動の強化を図ることとした。
  当然のことながら、加盟各社はそれぞれに品質管理に関する社内規定を定め、実行し管理を行っているが、品質に関する社内の最高責任者を定める、定期的に品質監査を行う、流通での品質管理を行う等を織り込んだ普電工独自の「品質管理マニュアル」を制定し、それによる各社の品質管理諸規定の見直しを行い、品質の重要性の徹底を図っている。
  電炉鋼の粗鋼に占める比率は今後ますます増大し需要分野も拡大するものと思われる。社会に対する責任を果たしつつ、需要ニーズに対応する鋼材の供給に業界を挙げて取組みたい。

参考文献

1) 鉄鋼界報(1994)3月 p7

2)「電炉鉄筋棒鋼品質調査報告書」(電炉鉄筋棒鋼品質調査委員会) (1991)

 p11〜26、33〜37、45  D25(SD345)のデータ p75 普通鋼電炉工業会

3) 改訂条鋼マニュアル「棒鋼・線材編」(条鋼部会編)(1986)p1 日本鉄鋼協会

4) 「鉄鋼生産高総括表」日本鉄鋼連盟(1975,1985,1993)

5) 普通鋼電炉工業会:土木施工26.1(1985) p106

 6) 改訂条鋼マニュアル「形鋼編」(条鋼部会編)(1985)p2、85 日本鉄鋼協会

 7) 日本鉄鋼協会:第98・99回西山記念技術講座(1977) p164

8) 野間千秋:合鐵技報No.5(1993)p63

9) 鋼材の性質と試験(日本鉄鋼協会編)(1977) p157 地人書館

10)「電炉鉄筋のガス圧接に関する研究」(普通鋼電炉工業会・日本圧接協会)(1980)

11) 大井一郎:圧延16(1981)3 p1

12)「電炉鉄筋棒鋼の研究」(日本鉄鋼連盟普通鋼電炉工業会)(1987)p53〜57、71、73、119

13) 電炉「広幅平鋼.SM50Aの力学的性能、溶接性等に関する特性研究(広幅平鋼委員会編)

(1988) p2、47〜48、57 日本鉄鋼連盟

14) 各社社内資料