熱間押出形鋼


光製鐵所熱間押出工場は、形鋼の生産を行うと言うことで設置されたが、既存の需要はなく、すべて需要開拓から始めなければならないもので、操業開始2年後に私が配属になった時、僅かにシートパイル用の爪を細々と生産していた。 その後製販一体となっての努力の積み重ねの結果、現在ではこの分野での世界の最トップの地位を得ている。

熱間押出形鋼とは

押出図(10Kb) 高温に加熱したビレットをラムでダイスに押し付け、ダイスに開けてある穴からトコロテンのように鋼を成形しながら押出す方法。
特徴としては、圧延では出来ないような形状のものが作れる、小ロット生産が可能、加工しにくい高合金鋼でも加工できると言うきわめてユニークな方法である。
しかしながら一方では、ビレットと言われる材料は無酸化加熱が必要、1000℃以上の高温で無理矢理ダイスを通過させるのでダイスが簡単に摩耗する、押出したままでは製品は曲がり捩じれていると言う問題を内包している。
この製品の需要開拓も簡単ではなかったが、製造技術の Brush Up も試行錯誤の繰り返しであり、関係者全員の汗と涙の結晶が現在の姿になっているものと思っている。
操業20年誌から形鋼に関するコメントを拾い上げると
小平 博氏(初代工場長): 熱間押出法は、ガラス潤滑による押出法なので、寸法精度は一般の熱間圧延鋼材以上のものであると考えていましたが、これは大変な誤りで、その後非常に悩まされることになりました。
高野 豊氏(元技術掛長): 押出ダイスの設計で、形鋼断面の図芯をダイス中心に持ってきたり、流体平均深さの考えを取り入れたり、外接円の中心をダイス中心に持ってきたりして寸法精度向上の試験を積み重ねて……。
青野 博氏(本社販売部): 最近の受注内容は各分野にわたっている。特にコンベアガイド、シーブ、材等の伸びが著しく、形状、ロット面から圧延対象とはならず、長さの点から鋳鍛造での対応が困難で、コスト的にも有利となっており……。
林 信夫氏(二形工長): 20周年を前にして形鋼の生産も2500T/Mと新記録を達成することが出来ました。

需要開拓と製造技術

熱押形鋼にはどのようなものがあるかについては、鐵の話題で取り上げたいと思っているが、前述したように需要開拓型の商品であり、私が担当した時期のトピックスを述べてみたい。

フォークリフトマスト

フォークリフトマストとは

フォークリフトの前面に二組付いているフォークの上下を支えるレールをマストと言う。

マストは車体に取り付けてあるアウターマストと、フォークの上下をガイドしながら上方に伸びるインナーマストがある。

従来は厚板を切り出してプレスで の字型に曲げた大小断面で外側のマストの中に内側のマストが入りその間には黄銅の摩擦受け板が数箇所に入っていた。 このプレス曲げのコスト低減策として採用された。 当時の熱押の寸法精度では、再度プレスでの修正が必要であったが、需要家でのコスト低減にはなっていたようである。 むしろ厚板を曲げると、曲げ部の板厚が薄くなり、強度が低下し許容負荷以上の負荷が掛かると、マストが開くことがあったのが無くなったと喜ばれた。 しかし熱押から考えると薄っぺらな形状で寸法精度が出ず、矯正機の増設など苦労したものである。
転機が訪れたのは、京都にあるバッテリーフォークの会社から呼び出しがあり、英国の会社と提携したら、その図面に熱押材と書かれていたので紹介を出したとのこと。 バッテリーだから従来のスライド式では、抵抗が大きく電池寿命の点からまずいので、ローラータイプにしたいとのことでこの開発に取り組んだ。 問題はローラーが通る所の寸法精度で我々の可能精度の1/3を要求された。 この精度に挑戦し実用化したことが、引き金となり全メーカーに採用されることになった。 最盛期には全国需要の95%以上のシェアーを誇ったものである。

 


国会議事堂の外柵

安保騒動の後、国会に頑丈な外柵を作ることになり、丈夫で且つ風格のある、ユニークな外柵をと言うことになり、熱押材に白羽の矢が立った。 名前は失念したが高名なデザイナーの先生と形状についての打ち合わせを繰り返し、我々の寸法精度に理解を得て形状が決まった。

アルミ等の非鉄と違い、1000℃以上の温度でダイスを通すのでどうしても寸法精度が出ない。最初は複雑な形状と、厳しい寸法精度から出発し妥協に妥協を重ねていただきながら、取り合わせの部分は機械加工していただくことで形状が決定した。

今でも東京に出張すれば、回り道でも国会議事堂を経由して柵を見ながら昔を思い出している。 今見ても風格のある柵だと思うのは私だけであろうか。 しかしこのような個別のデザイナーの名が付くような形状は、一回ぽっきりの製品であり、技術屋としての満足感はあるものの、工場の操業からはどうも〜。

ビルのサッシュ

ある生命保険会社本社ビルが都心から神奈川県に移転することになり、当時実用化が始まった耐候性鋼をサッシュに使うことになった。 耐候性鋼とは表面に出来る錆が緻密に生成し、安定な錆になりそこからは錆が進行せず、チョコレート色の安定錆になるものである。 新立地は緑が多く錆のチョコレート色が映えると考えられた。 また周囲に何も無い所に作られる高層ビルなので、風圧に耐える必要があり、風速毎秒80mでも水漏れのしない強度が求められた。
これに熱押形鋼が使われることになり、またまたデザイナーの先生との交渉が始まった。枠に組み立てた時の合わせ目の寸法が違うと、手直しが必要になるが、手直し部分と本体部分では表面の粗度が変わるために厳しい寸法精度が要求された。 枠毎の寸法は少し変わっても良いと言うことにしてもらい、大中小のマークを付けて出荷することとした。
完成後1年で錆が安定するはずの所が、ビルの中央に吹き抜けがありその部分の錆がなかなか安定せず、赤錆のままであると言うことで調査に行ったが、外周部はきれいな安定錆になってたが、確かに中庭に面した部分は安定化が遅れていた。 どうも日光が錆の安定化に寄与しているようである。 このビルは建築関係の雑誌等で取り上げられ、耳目を集めたが国会議事堂の外柵と同じように、同じ形状はその後使われることはなかった。
数年後に新日鉄の本社ビルに熱押サッシュが使われたが、外見上は同じように見えるがガラスとの取り合わせの部分の形が異なっており、また耐候性鋼を使ったが、通行人に赤錆が飛んではいけないと、塗装して使われた。

世界の頂点に立つ熱押形鋼

熱押形鋼の歴史は、寸法精度との戦いの歴史であった。ほんの数秒間の鋼材の通過でダイスが摩耗すること、その数秒間に材料の温度が低下し、低下する前に出た先端部と後から通過する後端部の収縮代が違うこと、材料のダイスの穴えの流れが場所毎に異なることなどが原因である。これに対し経験を基に暗黙知を解析しながら、形式知として標準化した関係者の努力を賞賛したい。
また押出された形鋼は曲がり捩じれて冷やされる。これに対して、引っ張ったりロールを通したり曲げたり捻じったりする矯正機を専用化して設置し、組み合わせて使うことで世界に誇りうる形状と精度の形鋼を供給出来るようになった。 これに従事している作業者の熟練の貢献は素晴らしいものがある。
この形鋼の黎明期から関与した私は今後も頂点を維持しての永続した発展を願うものである。