鐵鋼製造について
第4話 溶鉱炉による鐵の抽出
今回から現代の製鉄業の仕組みを概説します。

鐵は地球上に沢山あると言いましたが中心部に偏っていて、我々が利用できるのは地球の表皮に存在する酸化鉄が主たる物です。 この鉄鉱石と言われる原料から酸素を取り除き鉄を取り出すのが溶鉱炉(高炉)です。

鉄鉱石と言うとごろごろした石の姿を思い浮かべるかもしれませんが、前回書いたように、海中で酸化して蓄積したものですから、塊状のものもありますが殆ど粉状のものです。 粉のままでは使いにくいので塊状に焼き固める必要があります。その時に粉コークスや石灰石も混ぜて固めます。 コークスには2つの役割があり、酸化しているもの(鉄鉱石)から酸素を取り除く反応と、この還元反応には熱を与える必要があり、燃料にもなる重要な原料です。 石灰石は鉄鉱石中の岩石分を分離しやすくするために必要なのです。

銑鉄1トンを製造するのに大略1.5トンの鉱石、800kの石炭、石灰石150kを必要とします。 いま日本の高炉製鉄会社は年間約7千5百万トンの銑鉄を生産していますが、原料となる鉄鉱石約1億1千万トンは全量輸入に依存しています。

これら鉄鉱石は主としてオーストラリア、ブラジル、インドで採掘され船で運ばれます。運搬コストは水上輸送が最も安いので、比較的後進だった日本の製鉄業は沿岸に作られました。(昔は鉄鉱石か石炭の産地に作られた)

この写真はブラジルのイタビラ鉱山です。

このあたりの山は、山全体が高品位の鉄鉱石で出来ているため、山を次々に輪切りにし専用運搬列車に積み込み送り出します。年間5000万トン積み出し、日本には半量が来ています。

ここに見える台地はそれぞれ野球場が幾つも入る大きさで、そこにボーリング用のドリルをずらりと並べ、垂直に14mの発破用の孔をあけ、ダイナマイトを充填し、毎朝10時に一斉に点火する。

一回の発破で15万トン〜20万トンの鉱石が得られ、その量が毎日列車でヴィトリアまで運ばれ、鉱石専用船で出荷される。(なんと大型専用船2隻分にもなる)

したがって段々畑は14mの高さで作られる事になる。

##この鉱石輸送専用鉄道のレールの寿命延長試験に立会した様子はここに
参考文献:松塚健二著「北と南の友人たち」

鉱石の事前処理

世界各地から原料として鉄鉱石が輸入されていますが、産地によって性質が違うのでそのまま使うと溶鉱炉の操業が変化してしまいます。これを避けるために、広大な鉱石ヤードを持ち入荷した鉱石を畑の畝のように積み上げていきます。次の産地のものが入荷すれば、畝の上に積み上げます。この畝を端から切り取って使えば、原料品質の差を緩和できます。金太郎飴を想像してください。

焼結

前にも記しましたがほとんどの鉄鉱石は粉状です。これを使う溶鉱炉(高炉)は巨大は風洞なので、粉状では目詰まりしてしまいます。粉を適当な大きさに固めることが必要です。どうせ固めるなら、その中に必要な副原料も入れてしまえと、石灰石やコークスの粉を含めて固めています。長いトンネル形式の炉(焼結炉)に金属製のベルトが動き装入された原料がベルトで運ばれる間に加熱されて固まります。(焼結)これを適当な大きさに砕いて高炉の原料として使います。動く歩道に乗って頭上から炎であぶられてお互いにしがみつく姿を想像してください。

高炉

この焼き固めた原料(焼結鉱)と塊状のコークスを溶鉱炉(高炉)の上部から層になるように交互に装入します。炉の下から吹き込まれる約1100度の熱風により、コークスが反応して一酸化炭素や水素などのガスが発生します。 装入物は熱膨張しながら下方にせり落ちて行きますが、2000度以上の高温COガスにより鉄鉱石は溶けながら、酸素を奪われ鉄に還元して行きます。溶けた鉄は炉の中を豪雨のように流れ落ち、コークスと接触して更に還元され、岩石分とともに溶解し炉底に溜まり比重の差によって鉄(銑鉄)が分離されます。最近は吹き込む熱風と同時に酸素を吹き込んだり、さらには廃プラスティクスを砕いて吹き込む事で、高価なコークスの使用量低減をはかっています。

このように、高炉の中では吹き込まれた熱風により、コークスが燃焼し多量の生成ガスが高炉の中を通抜けていきますので、高炉内は通気性が良くなければなりません。その為に装入される原料は粒度分布が整っていて、強固なものが必要です。コークスは石炭を蒸し焼きにして作りますが、強固なコークスになる石炭(強粘結炭)を使う必要がありますが、この強粘結炭の存在は限られているのが問題です。 日本には殆ど産出しないので海外から輸入しています。

強粘結炭問題から逃げるためと、コークス製造工程の工程省略の見地から、ナショナルプロジェクトで直接石炭を使う製鉄法、とか弱粘結炭から強固なコークスを作る方法が検討されています。
昔は溶鉱炉と言えば高熱重筋を思い付くほどの作業でしたが、最近の溶鉱炉はまるで化学の反応塔のように見事に整備されました。

(参考文献 重見彰利著 「銑鉄ハンドブック」、鉄鋼連盟 「鉄が出来るまで」)

##地球を掘れば鉄はいくらでもあるのにと思いながらの40年でした