鐵鋼製造について  1997/12/9
第6話 鋳造
連続鋳造(1)
連続鋳造比率が鉄鋼業の技術の進歩を示す一つの指標になっています。鉄鋼業と言えば真っ赤に焼けた鋼を扱うと言うイメージがあります。

即ちエネルギーを必要とするのですが、連続鋳造の採用により大幅な省エネルギーが図られました。品質も飛躍的に安定向上したのですが、その裏には大変な技術の進歩がありました。私の専門ではないので、どこまで表現できるかわかりませんが連続鋳造の技術の発展に付いて述べてみます。開発初期の課題はいかにこのプロセスの操業を安定させ実用化するかと言う事でした。

安定操業技術:溶けた鋼を鋳型で固める方法は冷蔵庫の製氷機のようなもので、底が抜ける事はまずありませんが、連続鋳造は高々数10センチの長さをモールドで支え、外周部のみが固まり中心部は未凝固のものを引き出しながら、周辺から水を掛けて内部まで固めるので、外周部(Shell)が破れると中の溶鋼が流れ出てしまいます。

これをブレークアウトと言いますが、ブレークアウトが発生すると生産は止まり、なおかつ流れ出た溶鋼が機械設備にまぶりついて固まるので復旧が大変です。(天ぷらになると言う表現を使います)モ−ルド内で冷却されて出来るシェルが均一な厚みで発達すれば良いのですが、不均一になるとブレークアウトが発生します。溶鋼の温度、モールドの潤滑、モールドの冷却、機器のガタなどに許容されるバラツキを明確にして管理する事でこのような事故を防止できるようになりました。ブレークアウト率は操業レベルの総合的な評価に使われているのも、関連するすべての項目が管理状態にならないと容易にブレークアウトが発生するからです。

品質の安定化:うまく固まったとしても、その材料が最終製品になった時品質的に既存の鋼塊法より優れた品質である必要があります。通常品質とは表面と内部を言いますが、表面は疵の手入れをすれば何とかなるので、内質の改善が急がれました。

内質の欠陥は偏析、内部割れ、介在物が主たるものです。偏析とは鋼の内部で成分が偏在する事を言います。鋼は凝固する時に純度の良い部分から凝固が始まります。従って凝固の末期には純度の悪い部分が集まって固まります。従って早く冷却するとか、常に攪拌して均一な成分にしておくとかの工夫でこれを防止しています。これにより鋼塊法をはるかに凌駕する品質が得られるようになりました。内部割は凝固中に外力が作用すると、シェルに簡単に割れが発生し、そこに未凝固の溶鋼が差し込んだりする事を言います。

シェルだけ固まり内部に溶鋼がある状態で下方に引き出すので、次第に溶鋼静圧が掛かりシェルは膨れます。これを膨れないように抑える時に外力が掛かり割れになります。静圧を下げるために、連続鋳造機の形式が垂直形から、曲げ形、水平型と開発されました。

また膨らみを抑えるロールの形状、配置の工夫、機器が性能を発揮しつづける事が出来るメンテナンス技術等が進歩しています。介在物とは鋼の中の金属でない物質を言います。炉の壁に使われている煉瓦類、溶鋼中で生成する生成物、空気中の酸素による酸化物などがあります。これらは鋼より比重が小さいので、時間とともに浮上するので除去できるのですが、連続鋳造が浮上速度より早く引くと鋼の中に取り込まれてしまいます。これらの現象に対しそれぞれ対応策を検討し品質向上を図ってきました。
 
連続鋳造(2)
前回述べた問題点を克服し、連続鋳造は実用化へ大きく前進しましたが、製鉄業は大量生産が原則で、量を出す技術が求められました。量産には、休止時間を短縮する事、時間当たりの生産量を上げる事が必要です。

休止時間を短縮するには、連続して溶鋼を供給し操業しつづける事が求められ、この技術開発に取り組み実現しています。これを連連鋳(連続鋳造の連続操業)といいます。鋼の溶製は炉を使うのでバッチ処理です。このバッチで精練されて出てくる溶鋼を連続鋳造機に運び前の材料の終わりに連続して加えることで連連鋳が可能になります。

連連鋳を阻害する要因には、設備故障とか溶製炉と連鋳機ののマッチングを除くと、(1)耐火物の寿命、(2)溶鋼成分、(3)鋳造断面が主たる原因で、これを解決しなければなりませんでした。

(1)通常炉から出てくる溶鋼は一時間以内に注ぎ終わります。これを10回20回と連続して扱うのですから耐火物は1600℃の温度に10時間も20時間も晒されることになります。海水に対する鋼材の腐食は水面下よりスプラッシュゾーンと言われる海面部分が激しく腐食しますが、これと同じように耐火物も溶鋼液面近くが早く損耗します。即ち耐火物の損耗は場所によって異なります。 材質を変えたり、厚みを変えたりしてちょうどすべての部位が同じ寿命になるような構築の仕方とか、場合によっては短い部位のみ操業を阻害せずに取り替える事を工夫しています。

(2)最近は使用用途によって最適の溶鋼成分が求められます。例えば自動車用鋼板でも天井用、ドア用、トランク用、ボンネット用と成分を変えて作り分けています。前後の溶鋼の成分が違う場合には、そのまま連連鋳をすると成分が交じり合って、使えなくなる部分が出来てしまいます。これに対してモールド内に前の材料と後の材料を分けるために、仕切り板を入れて成分が混じり合わないような工夫をしています。

(3)鋳造断面については、例えば自動車用天井板一つとっても、車種によって板幅が違います。薄板の圧延では板幅は変えられないので製品板幅に合わせた幅に鋳造する必要があります。これに対しては鋳造中にモールドの寸法を変えて行く方法が開発されました。

時間当たりの生産性を上げるには、引き抜き速度を上げるか、断面を大きくする事で可能なのですが、引き抜き速度を上げると、モールドを出た所でのシェルが薄くなり破れ易くなります。生まれたての赤ん坊をそ〜っと抱くようにふわふわのシェルを扱う事と、破れようとする内圧は溶鋼面からの高さでかかりますので、これを出来るだけ少なくするために、機器の高さを低くして行きました。低くするためには固まりつつある材料を曲げなければなりませんが、曲げると言う外力が邪魔をします。 簡単に試行錯誤出来る代物でもないので、高度な理論展開と実測値からの計算で少しずつ進歩して行きました。

鋳造断面を大きくすれば、生産性は上がりますが、製品圧延工場が要求する最適な断面より外れたものになり易く、工程省略の効果が減じます。

連鋳化の初期には、品質の安定性と鋼塊製造のプロセスを排除するという事を求めて大断面の連鋳化が進みましたが、最近では Near Net Shape 即ち出来るだけ最終製品に近い形での鋳造を指向するか、思い切って大きな断面で鋳造し、中間工程として圧延機を一回通す方法に分化しています。

モールドの中では、溶鋼はモールドに接して外周部のみ凝固し少しずつ下方に位置を変えて移動して行きます。したがってそこには摩擦力が働くので潤滑が必要です。開発初期に使われたのは菜種油(Rapeseed oil)でした。今でも簡単な鋼種にはこれが使われていますが、潤滑性能を高め表面の欠陥を少なくするために、高温で溶融して潤滑性能を発揮する成分を粉末にしたものが使われるようになりました。

このような技術開発の結果、連続鋳造は殆ど全ての材料に適用できるようになり、ほぼ完成された技術として鉄鋼業の省エネにも多大の貢献をしています。最近の新しい技術としては、水平に引き出す「水平連鋳機」と数ミリ厚みの「薄板連鋳機」でしょう。

薄板連鋳機は要注目技術です。電炉製鉄業が大きく発展したのは、連続鋳造が実用化され巨大な投資をする事なく、比較的小断面の H 形鋼や棒鋼に使われる材料が簡単に得られるようになった事が引き金になっていますが、薄板連鋳機が実用化されると電炉業と高炉業の仕切りはまた変わってくるでしょう。

#光で薄板連鋳機の実機1号機が動き始める頃です、私も名を連ねている特許があり旨く行って特許料が入るようになるとハッピーなのですが#