pipeとtube |
鋼管と一般的に言いますが、英語ではPipeとTubeの二通りがあります。Steel pipes とか Steel tubes と言ったり、Pipes and tubes と言ったりします。 |
この差は判然としませんが、感覚的には、流体を通す目的のものをPipeと言い、肉厚を使うもの(熱の交換とか、強度など)をTubeと理解していました。 |
日本工業規格(JIS)には規格名称が英文でも表示してあります。それによると、Pipesとなっているものには水道用鋼管、配管用ステンレス鋼管、高圧配管用炭素鋼鋼管などがあり、Tubesにはボイラ熱交換器用炭素鋼鋼管、加熱炉用鋼管、機械構造用炭素鋼管、鉄塔用高張力鋼管などが含まれており、大体に於いては当たっています。 |
中には、外れているものが機械構造用ステンレス鋼管(Stainless steel pipes for structual purposes)一般構造用角形鋼管(Carbon Steel Square Pipes for ...) ケーブル保護用合成樹脂被覆鋼管の3規格見つかりました。 |
その他にも、鋼管杭をTubepile とは言わずに Pipepile と言います。 |
製造サイドから見ると、鋼管としては同じ作り方ですがTubeのほうが肉厚を使う分だけ、その部分の材質を作り込む必要があり管理項目が増えます。なんとなくTubeのほうが高級品のように思ったりしていました。 |
念のためにWebsterのHomePageで調べたら、Pipe には Any long tube or hollow body of wood, metal, earthenware, or the like: especially, one used as a conductor of water, steam, gas, etc. とあり、さすればと Tube を見ると A hollow cylinder, of any material, used for the conveyance of fluids, and for various other purposes; a pipe. となっていました。 |
なんとなく、pipeは穴のあいた長いもので、流すもの。tubeも流体を流すが、その他のいろんな目的に使われると言うことでしょうか。 |
鋼管には大別して継目無鋼管と溶接鋼管があります。 女性用のストッキングが昔は後ろに縫い目があったのが最近は無くなりました。 |
縫い目があるのが溶接鋼管、無いのが継目無(シームレス)鋼管です。 |
シームレス鋼管を作には、まず材料に穴を空けて、その穴を広げなければなりません。 この穴を開けるのが大変です。 ドリルのような工具で開けたり、高温で無理矢理工具を押し込んだりします。 この下穴を如何に無理なく空けるかが技術のポイントで、各社知恵を出して工夫しています。 穴を開ける時に正確に中心に開きませんし、その後肉厚を薄くして長さを長くするために圧延をしますが周囲の肉厚が同じ厚みになり難い特徴があります。 |
溶接鋼管は、一度板に圧延したものを丸めて溶接します。 従って鋼管の肉厚の精度は板の厚みの精度になるので寸法的にはシームレスの比べると格段に良いものが出来ます。 |
しかしながら、鋼管の全長にわたって溶接部が存在するわけで、溶接部の品質の信頼性が本質的な問題として残ります。 |
石油掘削に使われるシームレスパイプ |
シームレスパイプの主要用途は石油、ガス開発用の油井管です。 石油やガスの掘削は浅いところは掘り尽くし、次第に過酷な条件での掘削が増えています。例えば北海油田のように厳寒冷地とか、腐食性のガスを含む油田とか、6000m以上の深深度掘削などです。このような用途には高強度、高品質のシームレスパイプでないと使えません。 |
高強度、高品質が要求される理由は、厳寒冷地では鉄の低温脆性の問題があります。鉄には温度が低くなると脆くなる性質があり、壊れ易くなります。 |
次に掘削深度が深くなると、高温、高圧になることと、パイプを沢山つなぐことで一番上のパイプには非常に大きな重量が掛かり、これに耐えうるパイプが必要になります。 |
油井管には掘削に使うドリルパイプ、井戸枠となるケーシングパイプ、石油やガスを井戸から運び出すためのチュービングの3種類がある。 |
掘削はドリルパイプの先端にビットと呼ばれる掘削工具を付けて、それを回転させながら掘り進みます。ドリルパイプの両端にはネジが切ってあり井戸が深くなれば継ぎ足すようになっている。 ビットはある程度掘ると、摩耗するので交換の必要があるが、その時には引き上げてはネジを外すことを繰り返して引き上げます。交換後はまたその逆を繰り返すわけで、掘削深度が深くなるとビットが稼動する時間より交換時間のほうが長くなることも珍しくありません。 |
パイプにかかる重量では、例えば6000mの深さから石油を汲み出す場合、一番上のチュービングにかかる重量は外径10cmのもので200トンにもなります。 |
このような苛酷な環境で使われるパイプは誰でもが作れるものではなく、日本の4社を含み世界中で10社もありません。 高級シームレス鋼管の需要はこの石油掘削用が最も多く、石油の価格が上がると掘削が増え需要が増えます。 |
そのため石油産業関係者は常に原油価格と掘削装置の稼動数に注目しています。 |
PIC(Pipe in Coil) |
PIC とはパイプをコイル状に巻き取ったものです。
普通パイプと言えば真っ直ぐな管をイメージするでしょうが、これを巻き取る事によって長〜い管が得られます。
この長さを活用し、新しい需要分野を確立した製品の開発裏話です。 自己史にも書いていますが、この製品は新日鉄光製鉄所で鋼管の製造プロセスに線材の製造機能を付け加えて開発されました。 |
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パイプにはシームレス管(継目無鋼管)と溶接管がある事は既に述べていますが、溶接管には溶接部と言う品質問題を抱えているものの、価格の点から普通の用途には溶接管が使われています。(鋼管の90%は溶接管) この普通の鋼管は流通での取り扱い上、長さが決められています。 例えば水道管、ガス管では5500mm)従って長い配管を行うには、管と管をカプラーとか溶接でつなぐ必要があります。 |
長長尺の鋼管を使えればこの管の接続が不用になります。 使えればとわざわざ断ったのは、配管と言うものは通常見えない所をひっそりと隠れるように折り曲がったルートを通しますので、長長尺の鋼管を配管するのは不可能に近い使い方です。 |
所が配管分野にこの長尺のメリットが2つ見つかりました。 日本で始めて浅間に競技用のスケートリンクが出来ていましたが、10年以上経って冷凍能力が低下し、良い記録が出なくなりました。原因は配管の溶接部に長期間の使用で付着物が付き始め、冷凍能力が落ちた事によるものでした。 |
次に見つかったのは融雪用配管です。秋田大学の先生からお話があり、大学の構内に試験敷設を行いました。地下水を通す事によって地上の雪を溶かすものです。コンクリートの中に埋め込んで使う使い方で、溶接の工数を大幅に減す事が出来ました。 この融雪用途は雪国では今後延びる分野だと思います。 |
通常配管は曲げる部分とまっすぐな部分があります。 コイル状で納めたものを、現地では引き伸ばしながらまっすぐにしなければなりません。 これを矯直と言いますが、ポータブルな簡単な矯直機を考案し、現地に持ち込み使ってもらう体制を作りました。 |
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私は最初は上述の配管用にはあまり需要を期待せず、新規需要として中空の機械部品を考えていました。 |
ひとつは部品の軽量化のための中空材としての用途です。 棒鋼と鋼管は価格が違い棒鋼の方が安いのですが、長さ当たりのコストはほぼ同じになります。 違うのはある長さに切断して使うので、素材が短いと切断ロスの比率が比較にならないほど鋼管が悪い事です。 ここに長尺の鋼管を使えばこの問題は無くなります。 自動車のハンドルの芯に使われたことを契機にこのような用途開発が始まりました。 |
二つ目の狙いは機能として中空が必要な機械部品です。 このような機械部品には要求品質の点から継目無鋼管が使われ、寸法精度、表面(内外面)の平滑度の観点から冷間引き抜き仕上げが行われていました。
このプロセスはコストの高いものの組み合わせで、この置き換えを狙っていたのです。 そもそも、継目無鋼管は溶接鋼管に比べ価格が高く、必要不可欠な用途に絞り込むべきものです。 中実の棒鋼の冷間引き抜きと異なり、鋼管の冷間引き抜きには管の内面に後方から芯金(プラグ)を装入しその位置がずれない様に丸棒で止めておく必要があります。 即ち真っ直ぐな材料でないと引き抜き出来ないと考えられていました。 たかだか5〜6mの材料を1本1本引き抜くのですから能率も悪くコストもかかる方法です。 |
このプロセスを変えるには、2つの基本技術が必要です。 一つは溶接部の品質の安定性、次に後ろから支える必要のないプラグによる引き抜きです。 |
溶接部の品質に付いては、高級ラインパイプの溶接技術として開発された溶接条件の制御により画期的に安定化した事と、超音波探傷技術によって解決できる目処が立っていました。 |
プラグに付いては極小径管の引き抜きに使うフローティング・プラグが使えるものと考えました。極小径管では後方からプラグを支える棒の太さを細くせざるを得ませんし、細くなると引き抜き力に耐えられなくなるので、プラグの形状に工夫を凝らし、入れるだけで引き抜き中はその位置にとどまるようになっています。 これなら材料は真っ直ぐでなくても良いわけです。 |
所がこのアイディアを持って需要家に説明して回りましたが、なかなか賛同が得られませんでした。 機械設備を新たにせねばならぬ事、本当に引き抜き出来るかどうか疑問がある事が主たる原因です。 それではと、自分の所に数千万の費用を掛けて設備をおき、引き抜き作業を目の前でして見せました。 それでも動きがなかったのですが、小田原のある会社の社長は一目見て、これは使えそうだから、光に実験工場を持ち試験的に使ってみたいと言ってくれました。 その後PIC専門の加工工場まで建設され用途拡大が行われました。 |
これが引き金になり、今では多数の会社がPIC製品を使い始めました。 とは言え10年掛かりの開発です。新しいものに挑戦とは良く聞く言葉ではありますが、それを実践するには古くからのしがらみを排除し、新規性を評価しながら、論理と感性を持っての取り組みが必要だと思っています。 |