ステンレス景観材(2003/5)

1984〜5年ごろ鉄鋼業は不況にあえぎ、新規事業の展開が急務となった。社としては、保有するリソースを活用して新会社の設立に乗り出した。沢山の会社が設立されたが、現存する会社は数えるほどしかない。
製造現場である各製鉄所も競って新規事業と称するものに進出した。いわく、廃熱利用によるテラピア(いずみ鯛)の養殖、同じく布団丸干し事業、小型プレス機を使った携帯用蚊取り線香容器、鉄粉によるホッカイロ、などなどである。

光では、ステンレスを活用した新しい需要を開拓することとした。最初にステンレスの耐熱性を活用して、家庭用のごみ焼却炉を試作した。当時私は持ち家を作り、庭先に5mm厚みの厚板を溶接加工した焼却炉を作ってもらい使っていたが、1年半ほどで酸化腐食でぼろぼろになり穴だらけになった。
市中には、ぺらぺらの鉄板を使った家庭用焼却炉が\3000くらいで売られている。恐らく数ヶ月で穴があくだろうから、ステンレスで作れば10年以上使えるはずなので、\30、000を販売価格の目標にして試作させた。(確か原価は70%程度と記憶している)
これを市中の金物屋に紹介したら、卸値の倍額で無いと置けないと言われてしまった。それでは販売価格\50,000以上にもなってしまうので、金物屋に置かずに直販することにした。
販売チームを組み、トラックに積み込んで、チームの知人を頼っての販売をしたものである。

自分の家でも使ってみたが、2年使っても高熱部が酸化皮膜で変色はするが減肉もせず、上々の使いごごちであった。

都会では庭先と言えども、煙害でクレームが付くところであろうが、何しろ田舎ゆえその心配は無かった。

焼却炉を出発点に、その後加工設備を増強し屋外に設置する設備に進出を図ることになった。所謂景観材である。最初のころは、市内にカラス防止のごみ集積所を設置してもらったり、 製鉄所正門付近の境界線にステンレスの柵を設置したりして、PRと加工技術の蓄積を行った。併せて販売のための会社も設立した。

写真は1998年1月に光を訪問したとき、駅前で見つけたステンレス製のモニュメントである。
ここは海岸に近く、塩による錆が気になる。5年経っているので、一度見に行きたいもの。

先月私のWEBを見た香港の見知らぬ人から、ステンレスの景観材の質問が舞い込み、光の知人に電話して最近の状況を尋ねたり、カタログを送ってもらい、それを参考に回答した。

回答を書くにあたり、自分でもステンレスの景観材の写真を撮ったりしたので、このページを作ることにした。

質問の概要は、香港でも最近ステンレス製の景観材が使われ始めたが、亜鉛めっき製品との優劣はどうか。SUS304とSUS316のどちらがこの用途に向いているか。溶接部やその他の部分がさびるのだが。といったようなことで、次のような写真が送られてきた。

まるで景観材というより強度部材の感じ。
手棒溶接か、いかにも雑。 2B仕上げ(HotRooled&Pickled)と思われる。

この写真を見て私の感想として伝えたのは、日本では景観材に2B仕上げ品は錆びやすいことと見栄えの点から使わない。溶接部は外部から簡単には見えないような場所にする。ステンレスは単価が高いので単重の軽いもの(中空材)を多用する。と言うようなことであった。


とは言え、現役を離れて10年以上経っているので、最近の日本の現状はどうなっているのかと、新宿駅付近を探してみた。
南口階段の手すり 西口ハルクへの通路

南口の階段の手すりは非常に丁寧なつくりで、私の考えたとおりのものである。溶接のビードも綺麗である。

それに反して、西口の方は右の写真のように雑なつくりである。平板を横に繋いでいる丸棒とは雑なスポット溶接で隙間もあるし、錆の起点にもなっている。材料の仕上げも悪い。

今後、ステンレス景観材について写真を撮って紹介しよう。