ステンレス鋼

鐵の中でも一風変わったステンレス鋼について数回に分けて述べる事にします。
ステンレス鋼は歴史の浅い鋼で、発明されてわずか100年ほどの新しい鋼です。 ステンレスは日本語では不銹鋼と書きます。この字は良くその性質をあらわしているとは思いますが、Stain(錆)がless(littleの比較級:より少ない)ですから錆びない鋼と言うより錆難い鋼というのが正確です。と言うのもステンレスは使用される環境によっては簡単に錆びる事があります。 昔、よく需要家さんから、ステンレスだのにすぐ錆びた、不良品ではないかと言われて、Non-Stainではなくて、Stainがlessなのですと説明したものです。
一般的に、ステンレス鋼とは鋼の中にクロムと言う元素が12%以上入ったものをいいます。鋼に含有されているクロムが空気中の酸素と化合して表面に非常に薄い皮膜を作り、この皮膜がそれ以後の酸化(錆の発生)を防ぐので見た目にはさびが無いように見えるわけです。したがって表面を釘の先端のようなもので引っかいて疵をつけると、皮膜が再生しますが再生より錆が先行すれば赤錆になります。また塩分があると一般的には錆びやすくなります。ステンレス鋼には大きく分けて、クロム系ステンレスとニッケル系ステンレスがあります。 クロムだけが12%以上入ったものをクロム系と言い、その上にニッケルが入ったものをニッケル系と言います。 ニッケルと言う元素は価格が高いので、普通はニッケル系の方が価格も高くなっています。したがって値段の高いニッケル系の方が上物だと思い勝ちですが、それぞれに特徴があり用途に応じて使い分ける必要があります。
ステンレス鋼は普通の鋼の10倍の値段です(最近は安くなっているようですが)これはクロムと言う元素が非常に酸素と仲が良くて、精錬中に簡単に酸化してしまいます。酸化するという事は鋼に含ませたいのに逃げて行く事を意味しています。娘に変な虫がつかないように、深窓に閉じ込めておくか、大層な手切れ金を払って縁を無理やり絶ち切るかしなければなりませんがそれと同じような手段を必要とするので、鋼そのもののコストがかかることと、圧延などの加工中には、餅のようにネバイくベチャベチャ引っ付きやすく赤子を取り扱うように大事に加工しなければならないこと。その反面頑固者で普通のはがねより大きい加工力を必要とすることが影響しています。
ステンレスに必要な原料も価格に影響しています。 クロムは産地が偏在し価格も高いのですが、ニッケルはそれに輪をかけて高価な元素です。 フランス、カナダ、ソ連に生産を握られ、そしてわずか3〜5%しか含有していない鉱石(と言うより泥ですが)から精錬するのでコストもかかるわけです。価格はある商社マンが銅の投機売買に失敗したとして有名なLME(London Metal Exchange)で決められています。どこかの精錬所で事故があったとなれば価格は急騰し、ソ連が外貨獲得に乗り出したとささやかれれば急落します。 この記事を書くためにLMEのホームページで最近の価格推移を調べました。 1995年にトン当たり10000$まで上がった後7000$から9000$で推移していたものが、昨年3月から急落し最近では4200$になっています。恐らく不況により世界的にステンレスの生産が落ちているのが影響しているのでしょう。 ニッケル系ステンレスには約10%のニッケルが含まれているので、この価格から0をひとつ取った価格が原料に影響するので、関係者は一喜一憂しながら常にLMEの動向に注目しています。
われわれの身の回りにあるステンレスは最も一般的なステンレスで、磁石が付けばクロム系、付かねばニッケル系です。一般的にクロム系は靭性(ねばさ)が少ないので複雑な形には使われません。また熱処理によって硬さが上がるので、ばねとか包丁などの用途に使われます。これに反してニッケル系は靭性があるので過酷な加工をする用途に使われます。台所の流しなどはニッケル系です。
ステンレス鋼は歴史が浅いと言いましたが、新しいだけに日を追って用途開発が進み、鉄鋼需要が停滞している現在でも、着実に需要が伸びています。われわれの知らない所で新しい用途にどんどんステンレスが使われるのは非常に結構な事ですが、その度に新しい課題が出てきます。
われわれは、ボールペンに磁石の付いたものを常に持ち歩き、こんな所にステンレスが使われていると思ったときに、そっとボールペンを持ち出してクロム系かニッケル系かチェックしたものです。