錆びない特性を活かしたステンレス鋼

装飾用として
ステンレスはあのピカピカした華麗さが好まれ装飾用に沢山使われています。一番目に付くのは、パチンコ屋さんでしょうか。装飾用の丸い柱などに鏡面研磨してピッカピカの状態で使われます。

鏡面研磨が最もステンレスの特徴を出していると思うのですが、例えばエレベーターに乗ると、内面に使ってあるステンレスは鏡面仕上げにはなっていません。まさか自分の顔を見て、あまりにも・・・脂汗がタラタラにならぬようにするためでもないのですが、実は光の反射を人間が見る精度は素晴らしく高い精度です。したがって平面で使われるステンレスは、普通は映像が反射しないように使います。

例えば総ガラス張りのビルを見かけますが、1枚1枚のガラスが全体としてぴったりと取り付けてないと、ガラスに映る景色は途切れてしまいます。建築屋でないので、武部さんにフォローしてもらいたいのですが、あのガラスサッシュの個々の角度調整は、普通の測定法に頼ったのでは精度が出ないように思います。恐らく遠くから無線化電話で連絡しながら最後の微調整をしているのでしょう。したがって普通は平面で使う用途には、像が映らないように表面をざらざらにしたり無数の引っかき傷を付けたりあるいは表面に模様をつけたり塗装したりして反射像が出ないように使うのが普通です。

自動車にも装飾にステンレスが使われていますが、昔は殆どがクロムめっきでした。このクロムめっきと同じ色調のステンレスを望まれたものです。なかなかこれが難物でステンレスにはステンレスの色があるということで勘弁願いました。今はドア周りのモールやアクセントにステンレスが使われます。磁石をつけてみるとくっつくものとつかないのもがあるはずです。価格の点からクロム系が、過酷な加工を必要とすればニッケル系が使われます。ある自動車会社が、鹿児島県で販売する車のモールが櫻島の噴煙により簡単に錆びるので、特別に錆びないものを作って欲しいと要望があり成分を変えて作った事もあります。これは高くなるので他県では販売されていません。

自動車と言えば、ある自動車屋さんとの技術連絡会後の懇親会で、ワゴンを買いたいと考えているが、おたくのワゴンのリアドアにはステンレス板が張ってあるが、平坦度が悪いのかベコベコして安っぽく見えますねと言って顰蹙を買ったこともありました。
メンテナンスフリー
最近大型の建造物にステンレスの屋根が使われるようになりました。かの幕張のメッセが大型屋根の始まりだったと思いますが、屋根には熱膨張係数の少ないクロム系が使われます。設置場所が海岸に近いので、塩分による錆が問題になり、クロム系をベースとし、塩分の影響を受けないクロム系ステンレス鋼の開発を要請されました。ステンレスを製造している各社が夫々試作品を作り、海浜地帯での暴露試験のコンテストが行われました。各社思い思いの成分設計でコンクールに参加し、われわれのものが優勝しこれで全部の屋根が独占できると喜んだら、地元に製鉄所のある会社に3分の1を発注するので成分特許を使わせてやれと横槍が入った事もありました。幕張に行くたびにステンレス屋根と言う新規需要の発祥の記念建築物といつも思います。

最近は屋外のちょっとしたものにステンレスを見かけます。街角の手すりとか、国立公園の案内板とか、これらは設置しておけば半永久的に機能を満足します。今後ともこの種の用途はますます増えてくることでしょう。ただステンレスの泣き所は海水です。海水中の塩分の影響を受け、腐食しやすくなるので若干の注意が必要です。火山の硫化水素も問題でしょう。
給排水
確か東京都では水道本管から引っ込む水道管には鉄管は使えないはずです。鉄管を止めたら漏水が大幅に減った事、鉄錆の不満対策から決められたと記憶しています。そのころ給湯器も普及し始め、これにステンレスが使われるようになりました。鉄管は肉厚が厚いのでねじを切ってカプラーによるねじ込み接続ができますが、ステンレスは腐食代がいらないので、厚みが薄く特殊な接続法が必要です。この接続法を含めたトータルシステムをいち早く開発確立したN社が先行しました。新しい需要に先行着手しないと指をくわえて見ていることになる好例でした。

マンションの寿命は水回りで決まると言われています。10数年前に50年保証のマンションが建てられ、給排水、給湯器の煙道などにステンレスが使われました。所が使用してしばらくして煙道に漏れが出ました。応力腐食割れという特殊な環境下での割れで、煙道の材質は完全さを求めてチタンに変わりました。

20年ほど前に東京でアパートに住んでいた時、台所の排水の引きが悪いと棒でつついたら水はけが良くなりました。ところが塩ビのパイプを突き破り地下室に流していた事がわかり慌てた事や、神戸のマンションで水道が漏れて階下に滴り落ちた事もありました。水回りは素人ではお手上げで、材料を吟味する事が大切なのでしょう。
 
台所用品、食器用ステンレス
日用品で身の回りに多いのは食器用です。東南アジアの需要も非常に大きいものがあります。これにはニッケル系が使われます。ステンレス食器の弱点は磨いた時の色合いがなんとなく安っぽく見える事です。なんとか銀の色合いを出したいと、種々の合金を入れて銀に近い色合いのものが出来るようになりました。どうしてステンレスの食器にこんなに値段が違うのと思った時には、色合いを見てください。機能的には変わらないのですが、日本人の繊細な感覚の問題です。需要家からうへ〜っと思うような要求があっても、なんとか応えることが出来る研究者が居て、新しい鋼のステンレスの可能性を広げています。

台所では流しに使われているのがニッケル系ステンレスです。1枚の板からプレスで絞って作り出しています。昔はなかなか絞れず溶接も併用されていましたが、最近はすべて1枚の板から作られています。

包丁もステンレスが多くなりました。鋼で作られたものは焼入れにより非常に高い硬度になるので切れ味は抜群ですが、すぐに刃先が腐食するので常に磨いておかねばなりません。板前修業の第一歩は包丁の砥ぎとか。ステンレスは鋼ほど硬度を上げられないので、切れ味は今一つですが、刃先の腐食を考慮に入れると一般家庭ではこの方が喜ばれるのでしょう。